FII研究所とVCMが戦略的提携 中東初のボランタリーカーボンクレジット市場を国際資金のハブに

村山 大翔

村山 大翔

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サウジアラビアのリヤドで10月23日、グローバル非営利財団のフューチャー・インベストメント・イニシアチブ研究所(FII Institute)は、同国の公共投資基金(PIF)とサウジ・タダウル・グループ(STG)が設立した中東・北アフリカ地域初のボランタリーカーボン市場「ボランタリー・カーボン・マーケット(VCM)」との間で、戦略的パートナーシップを締結した。両者は10月27〜30日にリヤドで開かれる第9回FII年次会合(FII9)を前に発表したもので、気候金融の高信頼化と新産業創出に向けた国際連携を強化する狙いがある。

FII研究所の執行委員会会長兼CEO代行リシャール・アティアス氏は、「カーボン市場は、現在の排出と将来のネットゼロ目標とのギャップを埋めるための重要な橋渡しだ。VCMと連携することで、生態系の回復、雇用創出、新産業育成に資する資本を動員していく」と述べた。

また、地域ボランタリーカーボン市場会社(Regional Voluntary Carbon Market Company)のCEO代行ファディ・サーデ氏は、「この提携により、気候変動対策における王国のリーダーシップを世界に発信できる。国際ステークホルダーと連携し、自主カーボン市場を拡大し、気候金融の新たな機会を創出していく」と語った。

今回の提携では、排出削減・除去・相殺プロジェクトへの投資を促進し、世界の買い手と供給者を結びつけることで、高品質なカーボンクレジット市場の発展を加速させる。VCMが持つ地域ハブとしての機能と、FII研究所の国際的発信力を組み合わせることで、カーボン市場をネットゼロ実現と経済多角化(サウジ・ビジョン2030)推進の両輪と位置づける構想である。

VCMは2022年10月に設立され、PIFが80%、タダウル・グループが20%を出資している。同社は2023年にケニア・ナイロビで2.2百万トンのカーボンクレジットを取引し、2024年11月にはCOP29の開催に合わせて域内最大のカーボンクレジット取引所を立ち上げた。これまでに累計1,000万トン超のカーボンクレジットを取引しており、気候変動対策プロジェクト向けの投資基金や助言サービスなど、包括的な市場エコシステムを構築している。

今回の協力は、サウジアラビアが中東の気候金融拠点として国際資本を呼び込み、炭素除去(CDR)を含む高信頼カーボンクレジット市場を確立する重要な一歩となる。今後、FII9の議論を通じ、グローバルな排出削減投資の方向性が一層注目される見通しだ。

参考:https://fii-institute.org/press/fii-institute-and-vcm-sign-strategic-partnership-to-advance-high-integrity-climate-finance