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英プラントライフ、種多様性草地コードの創設可能性検討に着手 NbSクレジット市場の品質論争に新たな論点

2026.05.25 読了 約5分
英プラントライフ、種多様性草地コードの創設可能性検討に着手 NbSクレジット市場の品質論争に新たな論点
出典:イメージ

英国の植物保護NGOプラントライフ(Plantlife)は、種多様性の高い草地(species-rich grasslands)を対象とした新規カーボン・ネイチャーコード「種多様性草地コード(Species-rich Grassland Code)」の創設可能性検討に着手したと発表した。リーガル・アンド・ジェネラル(Legal & General)が資金提供する。

英国では森林カーボンコード(Woodland Carbon Code)と泥炭地コード(Peatland Code)が既に運用されており、本構想が実現すれば第3のNbSコードとして位置づけられる。プラントライフは草地が政策・市場の双方で看過されてきた状況を「グラスランド・ギャップ」と表現し、本検討の起点に据えている。

プロジェクトは科学的ベースライン構築、コード設計の検討、市場性分析、コード以外の代替手段の検討の4本柱で構成される。プラントライフは現段階を「コードを作るべきか」の前段階検証と位置づけており、フィージビリティスタディの性格が強い。

想定されるクレジット用途は、企業による排出影響補償としてのオフセット、サプライチェーン内の自然回復支援としてのインセッティング、農家自身による自家利用の3類型である。

リーガル・アンド・ジェネラルのカール・モクスリー(Carl Moxley)氏は「森林・泥炭地に追加されるコードが、ネットゼロ目標達成に向けた自然再生・創出の多様化に寄与する」とコメントした。プラントライフのネイチャーエコノミー・スペシャリストであるクレア・キグリー(Claire Quigley)氏は「健全で種多様性の高い草地が提供する全便益に報いる仕組みを構築する」と述べている。

草地クレジットが直面する品質要件のハードル

本構想を品質論の観点から評価する際、最大の論点は草地の土壌炭素貯留が抱える永続性・MRV課題である。

森林の地上部バイオマスや泥炭地の有機質土壌と比較して、草地土壌の炭素貯留は撹乱に対する脆弱性が高く、放牧管理・土地利用変更・気候変動による変動幅が大きい。土壌炭素は深さ・季節・土地履歴によって測定値のばらつきが大きく、検証コストが除去量当たりの経済合理性を圧迫する構造的課題を抱える。

ボランタリーカーボンクレジット市場では、REDD+型クレジットの信頼失墜以降、NbSクレジット全般の永続性・追加性・MRVに対する市場の目線は厳格化している。新規方法論である種多様性草地コードは、既存のNbSコードと同等以上の科学的厳密性を要求される環境下での船出となる。

一方で、草地クレジットの価値は炭素単体では十分に表現されない。生物多様性、土壌健全性、水循環、受粉サービスといったコベネフィットを統合的に評価する設計が、本コードの差別化要因となりうる。プラントライフが「カーボンクレジットへの矮小化」ではなく「全便益への対価」を志向している点は、コード設計の方向性を左右する論点となる。

もっとも、コベネフィットの貨幣化は方法論として未成熟であり、生物多様性クレジット市場自体が標準化の途上にある。複数便益を統合する設計は、結果として検証負荷を増大させ、クレジット単価の高止まりを招く可能性がある。

英国NbSコード戦略における位置づけ

英国は森林カーボンコード(2011年運用開始)と泥炭地コード(2015年運用開始)により、国別NbSコード体系の構築で先行してきた。種多様性草地コードが実現すれば、英国はNbS方法論の多様化において主要な発信源としての立場を強化する。

政策的文脈として、英国政府の農業環境支払制度である持続可能農業インセンティブ(Sustainable Farming Incentive、SFI)の縮小傾向が背景にある。プラントライフは公的支払いに依存できない状況を明示し、民間資金を農地生態系保全に呼び込む代替モデルとしてコード化を位置づけている。

ただし、公的補助の縮小を民間クレジット市場が補完しうるかは検証されていない。クレジット需要は購入企業のネットゼロ戦略と品質要件に左右されるため、安定的な農家収入源となりうるかは市場形成の進展次第である。

編集部の視点

本構想はNbSクレジット市場の多様化と質的深化に資する重要動向として位置づけられる。森林・泥炭地に次ぐ第3のNbSコード候補が英国から提示されたこと、特に生物多様性・水循環・土壌健全性のコベネフィットを統合する設計思想が示された点は、炭素単一指標からの脱却を志向するNbS市場の方向性と整合する。

同時に、本動向は英国ネイチャーコード戦略の延長線上に位置する漸進的展開でもある。英国は既存2コードの運用知見を蓄積しており、コード化のノウハウ・制度的基盤を有する。種多様性草地コードはこの蓄積を前提とした拡張であり、他国が直ちに追随できる類のものではない。

草地土壌炭素の永続性・MRV課題は、本コードの成否を左右する技術的論点である。コベネフィット統合設計は差別化要因となりうる一方、検証負荷の増大という構造的トレードオフを抱える。本構想がフィージビリティスタディ段階にとどまっている事実は、これらの論点の難度を反映している。

NbSクレジットの調達戦略を検討する企業にとって、英国発の方法論動向は中長期的な選択肢の多様化を示唆する。新規方法論の初期段階では品質要件の確立が市場価値を規定するため、コード設計プロセス自体への注視が求められる。

参考:https://www.plantlife.org.uk/our-work/exploring-the-case-for-a-new-species-rich-grassland-code/

カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。