欧州委員会とデンマーク議長国宛に、海運・航空・水素業界を代表する10社・団体が共同書簡を提出した。新たに策定中の「持続可能輸送投資計画(STIP)」において、ゼロエミッション船舶と航空機を戦略的技術として優先支援するよう求めたものだ。書簡は、脱炭素型輸送技術を中核に据えることで、欧州産業の競争力とエネルギー自立を同時に強化できると訴えている。
欧州の新政策「クリーン産業協定(Clean Industrial Deal)」の柱となるSTIPは、2025年末に正式発表される見通しだ。今回の書簡を取りまとめたのは、脱炭素航空・海運の業界連合「サシャ連合(SASHA Coalition)」で、エコジェット(Ecojet)、ゼロアビア(ZeroAvia)、ズールー・アソシエイツ(ZULU Associates)、モンテ(MONTE)、ハイブリッド・エア・ビークルズ(Hybrid Air Vehicles)、エルエイチツー・シッピング(LH2 Shipping)、コンダー(Condor)、ビヨンド・エアロ(Beyond Aero)、およびゼロエミッション船舶技術協会(ZESTAs)などが署名した。これらは、風力・燃料電池・バッテリー電動・水素推進といったゼロカーボン船舶技術を推進する65の海運関係者を代表している。
連合は、短中距離の輸送分野ではこれらの技術が最も持続可能かつ拡張性の高い脱炭素ルートであると指摘しながらも、現行制度では他技術に比べ政策的認知が低く、投資やインフラ整備が遅れていると批判した。
書簡では、STIP内でゼロカーボン船舶・航空機を「戦略的技術」として位置づけ、2040年までに域内輸送の一定割合をゼロエミッション機材で運行する義務目標を設定するよう提案。さらに、以下の施策を求めた。
- 再生可能水素の供給・オフテイク契約を支える航空専用「水素銀行(Hydrogen Bank)」資金の確保
- グリーン公共ルートを用いた地域実証拠点の設置
- 代替燃料インフラ規則(AFIR)の強化による港湾・空港での電動充電および水素燃料補給設備の義務化
エコジェットのブレント・スミス最高経営責任者(CEO)は「経済成長と環境を両立させるなら、ゼロエミッション輸送をクリーン産業協定の中心に据えるべきだ」と述べ、「認証制度、インフラ整備、オフテイク契約の整備が進めば、投資家は安心して大規模イノベーションを進められる」と強調した。
また、サシャ連合のアウレリア・リウー事務局長は、STIPが「政策的空白を是正する決定的な機会だ」と述べ、電気航空燃料「e-ケロシン(合成航空燃料)」に関するブック・アンド・クレーム制度(Book-and-Claim)の導入を提案した。
この制度は、e-ケロシンの製造・利用を証書ベースで取引し、実際の供給インフラが整うまでの過渡期に投資リスクを低減する仕組みである。書簡では、制度を以下の条件で導入するよう求めた。
- e-ケロシン専用の制度として設計し、最も持続可能だが発展途上の燃料分野を重点支援すること。
- 欧州経済領域(EEA)内に限定し、欧州生産者の競争優位を確保すること。
- 時限的措置とし、長期的には物理的インフラの整備へ移行すること。
欧州委員会は、2030年までに運輸部門の排出を1990年比で少なくとも55%削減する目標を掲げており、STIPはその実行計画の中核を担う。ゼロカーボン船舶・航空技術の戦略的位置づけと、e-ケロシン市場への明確な政策シグナルが、欧州のカーボンニュートラル達成の成否を左右する可能性が高い。
参考:https://www.sashacoalition.org/book-and-claim-stip-letter-to-commission
 
							 
			 
		 
				 
				 
				 
				 
				 
				 
				