2026年2月、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの北欧4カ国の産業団体は、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長およびウォプケ・フックストラ気候アクション担当委員に対し、欧州域内排出量取引制度(EU ETS)の整合性を維持するよう求める共同書簡を送付した。域内でカーボンクレジット価格の下落や市場の一時停止を求める政治的圧力が強まる中、クリーン技術への長期的な投資予見性を確保することが不可欠であると訴えている。
北欧の産業団体は、EU ETSがクリーンテクノロジーや産業の脱炭素化に向けた投資を促進するための、予測可能な市場ベースの枠組みを提供していると強調した。仮に政治主導で市場の介入や制度の弱体化を許せば、カーボンクレジット市場の信頼性が損なわれ、「汚染者が支払う(汚染者負担原則)」という基本原則が崩壊しかねないと警告している。
また、カーボンクレジットの売却によって得られる収益は、欧州が推進する「クリーン産業ディール(Clean Industrial Deal)」や、電力網の電化、重要インフラの構築に充てられる極めて重要な財源である。これらの資金循環を維持することが、欧州のグリーンイノベーションにおける競争優位性を支える鍵となる。
今回の北欧諸国による声明は、高いカーボンクレジット価格が企業の国際競争力を削いでいると批判する他の加盟国やロビー団体との対立を鮮明にしている。
- イタリアの反発
アドルフ・ウルソ産業相は先日、EU ETSをエネルギー集約型企業に対する「悪質な税」と断じ、制度の一時停止を公式に要求した。 - 13カ国の閣僚声明
ドイツやフランスを含む少なくとも13カ国の産業担当相が、過度な価格変動の抑制と、カーボンクレジット取得コストの負担軽減を求める共同声明に署名している。
欧州委員会は2026年7月までに、EU ETSの包括的な評価と更新案を提示する義務を負っている。欧州最大の産業団体である「欧州産業連盟(BusinessEurope)」も、気候中立に向けた中核ツールとしての制度は支持しつつも、現状の欧州産業の「警戒すべき競争力低下」を考慮した見直しが必要だとの見解を示した。
EU ETSにおけるカーボンクレジット価格は、企業の脱炭素投資を左右するベンチマークだ。仮に現在の価格水準が大幅に調整されれば、数百億ユーロ(数兆円規模)のクリーンエネルギープロジェクトが採算割れを起こすリスクがある。
欧州委員会が2026年7月に発表するレビューの結果は、2030年以降の気候変動政策の骨格を決定づけるものとなる。カーボンクレジットを通じた炭素除去(CDR)技術の統合や、船舶・航空部門への適用拡大が議論される中、北欧諸国は「制度の根幹を揺るがす調整は、過去の投資を無に帰す」として、断固とした制度維持を求めている。
EU ETSの動向は、日本企業がカーボンクレジット戦略を策定する上での先行指標となる。北欧諸国が制度堅持を叫ぶ背景には、既に脱炭素投資を完了させた企業の「先行逃げ切り」を守る意図もある。日本の中小企業においても、サプライチェーンを通じた炭素コストの転嫁が現実味を帯びる中、欧州の制度改正が単なる「環境規制」ではなく「産業保護」の側面を強めている点に注目すべきだ。
参考:https://www.mimit.gov.it/it/notizie-stampa/ue-urso-sospendere-ets-in-attesa-della-revisione-e-tassa-sulle-imprese
