欧州委員会は、流通枠総数(TNAC)に関するコミュニケーションを採択し、2026年9月1日から2027年8月31日までの12か月間に、合計約1億9,049万トンの排出枠を市場安定化リザーブ(MSR)へ投入すると決定した。投入はオークション供給量の減少として、2026年7月頃に採択されるオークションカレンダーに反映される。
2025年のTNACは10億2,349万トンであり、この年間余剰指標がMSRの稼働量を決定する。TNAC Communicationは制度上、毎年6月1日までに採択することが定められている。次回のTNAC指標は2027年6月1日までに公表される。
流通枠総数が高水準にある局面で約1.9億トンをオークションから差し引く今回の措置は、需給を引き締める方向に働く。オークション供給の縮小は、EU ETS価格を下支えする要因と読み取れる。
投入規模はTNACの水準に連動して機械的に算定されるため、市場参加者にとっては事前に織り込み可能な調整である。
2026年1月1日時点で、MSRには4億トンの排出枠が保有されていた。現行制度では、この水準を超える分は無効となる。
2026年4月、欧州委員会はこの無効化メカニズムを停止する改正を提案した。改正が発効するまでは、MSR Decision第1条(5)に基づき、毎月12分の1ずつ加算する従来の計算方式が継続される。
今回の排出枠投入は、EU ETSの供給引き締めが自動調整メカニズムを通じて規定どおり進行していることを示す。
流通枠総数が高水準にある局面で約1.9億トンがオークション量から差し引かれることは、需給を引き締め、価格を下支えする方向に働く。2026年7月頃のオークションカレンダーに反映される供給減は、市場が織り込み可能な調整である。
ただし、この投入はTNAC連動の規定に基づく定例的な調整であり、裁量的な市場介入ではない。供給引き締めの方向性そのものに新規性はなく、メカニズムの予見可能性が保たれている点に意味がある。
むしろ中長期の供給見通しを左右するのは、4月に提案された無効化メカニズムの停止である。上限超過分の永久消去を止める改正が発効すれば、構造的なタイト化要因とされてきた供給の不可逆的な縮小は緩和される。今回の定例投入の着実さとは別に、この制度改正の帰趨が供給の長期的な方向を決める論点となる。
参考:https://climate.ec.europa.eu/news-other-reads/news/190-million-eu-ets-allowances-be-placed-market-stability-reserve-between-september-2026-and-august-2026-05-29_en