欧州のCCUS関連業界団体・企業21者が2026年5月21日、EUのCO2輸送インフラ規制枠組みについて段階的かつ柔軟なアプローチを採用するよう欧州委員会に求める共同声明を発表した。取りまとめはカーボンキャプチャー・アンド・ストレージ・アソシエーション(Carbon Capture and Storage Association、以下CCSA)と国際石油・ガス生産者協会欧州支部(IOGP Europe)が担い、署名にはエクイノール(Equinor)、ユーロフェル(EUROFER、欧州鉄鋼連盟)、セフィック(Cefic、欧州化学工業連盟)、ガス・インフラストラクチャー・ヨーロッパ(Gas Infrastructure Europe)、グローバルCCSインスティテュート(Global CCS Institute)など欧州CCUSバリューチェーンの主要プレイヤーが名を連ねた。日系企業からは商船三井(Mitsui O.S.K. Lines)が単独で署名している。
声明は欧州委員会が2026年第3四半期に予定するCO2輸送インフラ・市場に関する立法提案を念頭に置いたものである。欧州のCO2輸送市場は稼働中のインフラが限定的で、多くのプロジェクトが規制・資金・調整面の課題を抱えた揺籃期にあるとし、現段階では規制枠組みの整備よりも投資のデリスキングと早期プロジェクトの展開支援を優先すべきだと主張した。
声明が掲げた原則は4点である。
第一に、市場の漸進的発展に合わせて規制も段階的に発展させること。単一の市場モデルを早期に処方するのではなく、加盟国レベルでの柔軟性を初期段階で維持すべきとした。第二に、許認可手続きの合理化、産業クラスター開発の支援、EUおよび加盟国レベルでのデリスキング措置の展開といった早期展開を可能にする施策の優先実施。第三に、捕捉・輸送・貯留・利用を連動させたCO2バリューチェーンの協調的発展。地域クラスターと越境回廊の整備、パイプライン輸送と非パイプライン輸送の対等な扱いを求めた。第四に、早期段階での比例的かつ柔軟な規制設計である。
特に規制設計に関する具体的要求として、第三者アクセス制度については市場成熟に合わせた段階的・適応的・比例的な導入にとどめること、EU共通のタリフ手法の現段階での導入を回避し加盟国に透明かつコスト反映型の国内アプローチ策定の柔軟性を残すこと、ファーストムーバー投資を毀損する遡及的な政策変更を回避することが盛り込まれた。声明は「バンカビリティ」の保全を明示的に要求している。
EUは2030年までに年間5,000万トンのCO2貯留容量確立と、パイプライン・船舶・鉄道・トラックを組み合わせた越境ネットワーク構築を産業炭素管理戦略の目標として掲げている。今回の声明はこの目標達成に向けた立法プロセスにおいて、業界側の規制設計に対するポジションを早期に示したものと位置づけられる。
もっとも、段階的アプローチ要求の妥当性については議論の余地がある。署名団体には化石燃料上流(IOGP、エクイノール、ユーロガス、フューエルズヨーロッパ)と排出産業(ユーロフェル)が中核を占めており、規制空白下での先行者利益の固定化や、CCUSが既存排出事業の延命策として機能するリスクへの懸念も論点として残る。
本件はEU CO2輸送インフラ整備の進捗速度を左右する論点である。
欧州の業界が段階的規制を要求する背景には、貯留サイトと排出源を結ぶ輸送インフラ整備の遅延が現にCCSプロジェクトの最終投資決定(FID)を阻害している現実がある。
日本においてもCCS事業法の本格運用が2026年5月に開始され、先進的CCS事業の選定が進む一方、輸送インフラ(特に船舶輸送)の制度設計と国際的相互運用性は実用化の律速段階となりつつある。EUが2030年5,000万トン貯留容量目標に向けた立法プロセスでどのような輸送規制を採用するかは、越境CCSバリューチェーン構築を視野に入れる日系プレイヤーにとって直接の制約条件となる。商船三井の単独署名は、日系海運がCO2船舶輸送のグローバル市場形成に当事者として関与する意思を示した事例である。