英国のエネルギー大手ドラックス(Drax)は1月26日、世界の供給網における木質バイオマスの調達工程を追跡するデジタルツール「バイオマストラッカー(Biomass Tracker)」を公開した。
このツールは、原料の産地から発電所、または第三者の顧客に届くまでの各段階で発生する二酸化炭素(CO2)排出量を可視化するもので、バイオエネルギー起源の炭素回収・貯留(BECCS)による炭素除去(CDR)の信頼性向上を狙う。
バイオマストラッカーは、ドラックスが自社で調達するバイオマスの原産国や州、使用される繊維の種類、輸送手段、そして各工程に紐づく炭素データをインタラクティブなサンキー・ダイアグラムを用いて表示する。
ユーザーは、原料の発生源からペレット化、輸送、貯蔵、最終的な利用までの全プロセスを四半期ごとの実データに基づいて詳細に確認することが可能となった。また、第三者機関による持続可能性認証データも含まれており、業界全体の責任明確化に寄与する。
ドラックスの最高サステナビリティ責任者(CSO)であるミゲル・ヴェイガ・ペスターナ(Miguel Veiga-Pestana)氏は、「バイオマストラッカーの導入は、持続可能なバイオマスに対する信頼と確信を築くために不可欠な一歩である」と述べた。同氏は、透明性の確保とデータに基づく報告を通じて、バイオマスが持続可能な方法で調達され、英国のエネルギー安全保障を支えることができると強調した。
今回のツール公開は、同社が2025年2月に導入した「サステナビリティ・フレームワーク」に基づくコミットメントの一環である。データとデジタル革新を活用してサステナビリティ報告を強化し、複雑なバイオマス供給網における責任ある調達を証明することを目的としている。
ドラックスは現在、英国の発電所およびグローバル市場においてBECCS技術を用いたCDRの選択肢を拡大させている。2030年までにBECCSを通じて年間700万トンのCDRを実現する計画を推進中だ。2024年には、CDR事業を加速させる新会社エリミニ(Elimini)を米国に設立しており、排出型経済から除去型経済への転換を主導する姿勢を鮮明にしている。
今後、ドラックスはバイオマストラッカーに新しいデータや機能を追加し、持続可能性に関するベストプラクティスの更新を継続する予定だ。
今回の「バイオマストラッカー」の公開は、単なる企業の透明性アピールに留まらず、今後の炭素除去(CDR)市場における「クレジットの質」を左右する重要な布石といえる。
バイオマス発電をベースとしたBECCSによる炭素除去は、原料調達時の土地利用変化や輸送過程の排出量が厳格に評価されなければ、ネガティブエミッションとしての価値が毀損されるリスクを常に孕んでいるからだ。
特にドラックスは過去、環境団体からバイオマスの持続可能性について厳しい批判を受けてきた経緯がある。
サプライチェーンの末端までデジタルで追跡し、CO2排出量をリアルタイムに近い形で公開する姿勢は、批判に対する強力な回答となると同時に、同社が発行を目指すBECCSクレジットのプレミアム価値を担保する論理的支柱となるだろう。
日本企業においても、バイオマス燃料の輸入やCCS事業への関心が高まる中、このような「検証可能な透明性」の構築は、国際的な信頼を得るための必須条件となるはずだ。


