米エネルギー省、大型DAC2拠点の資金打ち切りを検討

村山 大翔

村山 大翔

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米エネルギー省(DOE)が、米国内最大級の直接空気回収(DAC)プロジェクト2件への連邦資金を打ち切る可能性が浮上した。関係筋によると、総額約7億5,600万ドル(約1,150億円)に上る気候・エネルギー関連助成金の取消しを発表したのに続き、ルイジアナ州の「プロジェクト・サイプレス」とテキサス州の「サウス・テキサスDACハブ」も対象に含まれる可能性があるという。

これら2件は、バイデン政権下で採択された地域DACハブ計画(Regional DAC Hubs Program)に基づき、各拠点へ最大5億ドル(約760億円)超の補助金が段階的に支給される予定だった。だが、MITテクノロジーレビューが入手したDOEの内部資料によると、両プロジェクトに対して「terminate(終了)」と記された欄があり、初回分の約5,000万ドル(約76億円)を「打ち切り予定」と明記しているという。

DOE広報のベン・ディートリヒ氏は、「両プロジェクトが正式に終了したとの報道は誤りであり、現時点では個別精査の段階にある」と述べ、最終決定は下されていないと強調した。

炭素除去産業への打撃と雇用リスク

「プロジェクト・サイプレス」はバテル(Battelle)、クライムワークス(Climeworks)、ヒアルーム(Heirloom)の共同事業であり、2030年までに年間100万トンのCO2除去を目指す。一方、「サウス・テキサスDACハブ」はオクシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum)子会社1ポイントファイブ(1PointFive)が開発を進め、最大年間3,000万トンの除去を想定している。

これらの拠点は、カーボンクレジット市場向けに高品質カーボンクレジットを大量に供給する計画であり、マイクロソフトやユナイテッド航空など複数の企業が購入契約を締結済みだ。DOE支援が停止すれば、米国のカーボンクレジット供給力や雇用に深刻な影響が及ぶ可能性がある。

CDR業界団体「カーボン・ビジネス・カウンシル」は声明で、「プロジェクト中止は13万件以上の雇用リスクと数十億ドル規模の経済機会損失につながる」と警鐘を鳴らした。

カーボン・リムーバル・アライアンスのジアナ・アマドール氏と同カウンシルのベン・ルービン氏は共同声明で、「連邦議会が3.5億ドル(約530億円)を拠出したDACハブ計画は、世界最大の炭素除去施設群として米国の主導権を確立する狙いがあった。資金が打ち切られれば、他国にリーダーシップを奪われ、雇用や経済効果も流出する」と指摘した。

不透明な政策転換と国際競争

DOEは先週、223件に上る気候関連プロジェクトへの助成を「経済的合理性がない」として取り消したが、DACハブの扱いについては正式発表を避けている。だが、トランプ政権下での気候政策見直しの一環とみられ、ヒアルーム社ではすでにレイオフが発生。3,500万ドル(約53億円)規模の政府主導炭素除去コンペも停滞している。

カーボン180のエリン・バーンズ事務局長は、「この不確実性が最大の問題だ。補助金再交渉の可能性もあるが、現時点では米国のDAC開発リーダーシップが脅かされている」と述べた。

クライムワークスの共同CEOクリストフ・ゲバルト氏も、「世界が気候目標を達成できていない今こそDACが必要だ」と強調し、計画継続への意欲を示した。

米国の立場と今後の焦点

DACは、CO2を大気中から直接吸収・貯留する技術であり、世界の気候モデルでは今世紀半ばまでに年間数十億トン規模の除去が必要とされる。だが、運転コストとエネルギー需要の高さが課題とされている。

連邦資金が打ち切られれば、米国は新興の炭素除去市場での主導的地位を失うおそれがあり、日本や欧州、中国などがその空白を埋める展開も予想される。ルイジアナ州開発長官スーザン・ボネット・ブルジョワ氏は、議会への書簡で「州経済と雇用のため、プロジェクト継続が不可欠」と訴え、州知事や連邦議員も支援に動いている。

DOEは今後数週間以内に最終判断を下す見込みであり、米国のCDR産業の行方を左右する局面となる。

参考:https://www.technologyreview.com/2025/10/07/1125207/the-us-is-set-to-cancel-funding-for-two-major-direct-air-capture-plants/