カナダの炭素除去(CDR)プロジェクト開発会社ディープスカイ(Deep Sky)は8月20日、アルバータ州イニスフェイルで建設していた実証拠点「ディープスカイ・アルファ」が正式に稼働を開始したと発表した。北米で初めて、大気から直接回収したCO2を地下に永久貯留するプロジェクトとなる。
同施設は工業団地の約5エーカー(約2万平方メートル)の敷地に建設され、稼働までわずか12か月という異例の速さで完成した。初期導入されたDAC(Direct Air Capture、直接空気回収)技術は、英エアハイブ(Airhive)、ミッション・ゼロ・テクノロジーズ(Mission Zero Technologies)、ケベック州のスカイレニュー(Skyrenu)の3社によるもので、今後は世界各国から最大10種類のDAC装置を導入する予定である。
捕捉されたCO2は、アルバータ州に豊富に存在する塩水帯水層と呼ばれる地層に圧入し、恒久的に隔離する。施設の処理能力は年間3,000トンで、電力はすべて太陽光発電で賄われる。ディープスカイは専用ソフトで除去量を常時モニタリングし、成果を公開するとしている。
スカイレニューは今回、同社のDAC装置で回収したCO2を地下貯留することに初めて成功し、カナダ企業としても大陸初の完全な「回収から隔離まで」のサイクルを達成した。同社CEOのガブリエル・ヴェジナ氏は「カナダ発の気候技術が世界の舞台で先導できることを示した」と述べた。
ディープスカイのアレックス・ペトレCEOも「1年で建設から稼働まで実現し、CO2を大気から取り出し、永久に地中に閉じ込めることを証明した」と強調した。
同プロジェクトは建設段階で110人以上の雇用を生み、今後は約15人の常勤職員を配置する。アルバータ州政府は約360万カナダドル(約3億8,000万円)を支援しており、同州環境・保護地域省のレベッカ・シュルツ大臣は「規制環境や人材基盤を活かし、アルバータが世界の気候技術拠点であることを示すものだ」と歓迎した。
ディープスカイはすでに米マイクロソフトやカナダロイヤル銀行とCDRカーボンクレジットの購入契約を結んでおり、さらにブレークスルー・エナジー・カタリストから4,000万ドル(約56億円)の助成を受けている。アルファ拠点で生成されるクレジットはすでに完売しているが、後続プロジェクト分については予約販売を進める方針だ。
同社はアルバータやケベックでより大規模なプロジェクトを進行中で、ギガトン規模のCO2除去を視野に入れている。今回の「アルファ」稼働は、CDRカーボンクレジット市場の拡大と、企業のネットゼロ達成に不可欠な高品質CDR(炭素除去)の実現に向けた一里塚となる。