チェコのアンドレイ・バビシュ首相は2月2日、欧州連合(EU)の主要機関および加盟国に対し、排出量取引制度(EU ETS)の抜本的な改革を求める書簡を送付したとロイター通信が報じた。
バビシュ首相は、域内のエネルギー価格高騰が産業界の欧州離れを加速させていると指摘し、排出枠価格の上限設定や、建物・道路輸送部門を対象とする新たな制度「ETS2」の導入延期など、市場の柔軟性を高める緊急措置を提案した。
今回の要請の背景には、2026年初頭に排出枠価格が1トンあたり90ユーロ(約1万4,500円)を超える水準まで上昇し、企業のコスト負担が限界に達しているという危機感がある。バビシュ首相は改革案の中で、価格の過度な変動や急騰を抑えるための「価格キャップ制(上限設定)」の導入を強く求めた。
さらに、当初2028年に開始予定であった建物や道路輸送燃料を対象とする「ETS2」の運用開始を、少なくとも2030年まで延期することを提言した。金融機関による排出枠の投機的取引が価格を押し上げているとして、産業界の実需に基づかない取引を制限する規制の導入も求めている。
バビシュ首相は、既存のETSについても最大5年間の「一時停止」を検討すべきだと言及した。炭素コストと電気料金を切り離すことで、家計や産業用消費者を保護する狙いがある。
この動きに対し、スロバキアのロベルト・フィツォ首相ら周辺諸国の首脳も支持を表明している。
フィツォ首相は、高いエネルギーコストが続けば、中国などの国際的な競合国に対して欧州の産業が「崩壊」する恐れがあると警告した。
EUはこれらの提案に対し、2026年2月中に開催予定の首脳会議で議論を行う見通しである。気候変動対策と産業競争力の維持をいかに両立させるか、制度の根幹に関わる調整が迫られている。
今回のチェコによる提案は、カーボンクレジット市場、特に強制的なコンプライアンス市場における「価格の受容性」が限界に達しつつあることを示唆している。これまでは高い炭素価格が脱炭素投資を促すとされてきたが、エネルギーコスト増に伴う産業空洞化のリスクが現実味を帯びている。
特に「ETS2」の導入延期が現実となれば、建物や輸送部門での炭素除去(CDR)技術への需要シナリオに修正が必要となるだろう。一方で、投機規制の議論はボランタリークレジット市場にも波及する可能性があり、今後のEU首脳会議の動向は、2030年に向けたクレジット価格の安定性を占う重要な指標となるはずだ。


