「ブロックチェーンによる炭素登録簿」 コーネル大学、カーボンクレジットの信頼性を自動検証する新プラットフォームを開発

村山 大翔

村山 大翔

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米コーネル大学(Cornell University)の研究チームは、カーボンクレジットの登録・検証プロセスを劇的に透明化するブロックチェーン基盤のプラットフォーム「CATchain-R(Climate Action in Transportation)」を開発した。

2026年2月13日、学術誌『npj Climate Action』に掲載されたこの技術は、従来のカーボンレジストリ(排出権登録簿)で長年問題視されてきた二重計上や不適切な検証、および「グリーンウォッシング」の懸念を排除し、特に排出管理が困難な運輸部門での信頼性構築を目指すものである。

改ざん不能な「デジタルの万里の長城」で不正を防止

現在、多くのカーボンレジストリは、緩やかに組織された測定・報告・検証(MRV)プロセスに依存しており、検証の不備や、同一の削減量を複数回計上する「二重計上」といった問題が頻発している。過去には、マイクロソフト(Microsoft)社が購入したバイオエネルギー由来のオフセットが、デンマーク政府によっても計上されていた事例などが報告されている。

今回開発された「CATchain-R」は、許可型ブロックチェーンを活用し、気候変動へのコミットメント、プロジェクト設計、検証報告書、およびトークン化されたカーボンクレジットを、タイムスタンプが付与された一連の記録として永続的に保存する。

一度承認された情報は改ざんが不可能であり、追跡可能な監査証跡が自動的に形成される。研究を主導したシンライ・リュウ(Xinlai Liu)博士は、これを「気候リスクを軽減するための、改ざん防止機能付きの共有デジタル『万里の長城』」と表現している。

「炭素信用格付け」で企業の実行力を可視化

CATchain-Rの最大の特徴は、独自の「炭素信頼性指数(Carbon Credibility Index)」を導入した点にある 。これは、組織が掲げた削減目標と実際の達成度を比較し、その「誠実さ」を定量化する仕組みだ。

  • 自動スマートコントラクト
    排出削減率や適時性、目標達成率などの客観的な基準は、スマートコントラクト(自動実行契約)を通じて自動的に評価される。
  • 利害相反の排除
    従来のレジストリではプロジェクト開発者が検証機関を選定・支払いを行うため、監査の独立性に懸念があった 。新システムではレジストリ側が検証者を介在・選定する仕組みを導入し、検証の客観性を担保している。

この指数は、金融機関における信用格付けのように機能し、信頼性の高い「カーボンエンティティ(炭素実体)」ほど、グリーンファイナンスの獲得や市場でのカーボンクレジット取引において有利な条件を得られる仕組みを構築する。

ニューヨーク市のシミュレーションで有効性を実証

研究チームは、このプラットフォームの有効性を検証するため、ニューヨーク市(NYC)の運輸部門における2005年から2050年までの排出量データを用いたシミュレーションを実施した。NYCは2050年までに2005年比で温室効果ガス排出量を80%削減することを公約に掲げている。

シミュレーションの結果、現状維持(BAU)シナリオでは削減ペースが遅すぎて2050年の目標を達成できず、外部クレジットへの依存度が劇的に高まることが判明した。一方で、米国の長期戦略に沿った軌道(2020年までに17%、2030年までに50%、2050年までに80%削減)を採用した場合、2048年付近で目標軌道に収束し、炭素信頼性指数も着実に上昇していくことが示された。

コーネル大学のH. オリバー・ガオ(H. Oliver Gao)教授は、「信頼できる一貫した方法で測定できなければ、改善は不可能である。特に信頼が重要となる気候アクションにおいて、この問題は深刻だ」と述べ、技術によるガバナンス強化の重要性を強調した。

今後は、航空や海運といった他分野、あるいは異なる地域間でのパイロット運用の展開が期待されている。

日本でもJ-クレジット制度の活性化や「GXリーグ」での排出量取引が本格化しているが、MRV(測定・報告・検証)のコストと透明性は常に課題となっている。

本技術のような「格付け」機能を持つブロックチェーン基盤が普及すれば、実力のある技術を持つ日本の中小企業が、その削減効果を正当に評価され、適正な価格でクレジットを売却・資金調達できる土壌が整うだろう。

参考:https://news.cornell.edu/stories/2026/02/new-blockchain-platform-brings-credibility-carbon-registries