COP30、国連新炭素市場の始動に暗雲 「旧制度からの資金移管」巡り紛糾

村山 大翔

村山 大翔

「COP30、国連新炭素市場の始動に暗雲 「旧制度からの資金移管」巡り紛糾」のアイキャッチ画像

ブラジル・ベレンで開催中の国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)において、国連が主導する新たな世界的なカーボンクレジット市場「パリ協定クレジットメカニズム(PACM)」の立ち上げが、運営資金をめぐる対立により重大な局面を迎えている。京都議定書時代の旧制度から新制度への資金移管について各国政府間の調整が難航しており、本格稼働の遅れが懸念される事態となっている。

旧制度「CDM」の閉鎖と資金枯渇リスク

ロイター通信によると、複数の交渉関係者が、PACMの立ち上げプロセスが「資金問題」という新たな障害に直面していることを明らかにした。 争点の核心は、京都議定書の下で運用されていた「クリーン開発メカニズム(CDM)」の閉鎖プロセスと、そこに残された資金の扱いにあたる。交渉筋によれば、CDMからPACMを運営する新機関への「現金移管」が合意されなければ、新市場の監視・運営を担う「6.4条監督委員会(Article 6.4 Supervisory Body)」が十分な資金を確保できなくなるリスクがあるという。

各国政府は10年以上にわたる交渉の末、昨年のCOPにおいて、国や企業が途上国での排出削減・除去プロジェクトから生じるクレジット(A6.4ERs)を売買できる中央集権的な国連取引システムのルールについて、ようやく合意に至ったばかりだった。今回の資金論争は、この実務的な進展に水を差す形となっている。

パリ協定クレジットメカニズム(PACM)の役割と現状

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は、PACMを「国連の新しい高潔性(high-integrity)カーボンクレジットメカニズム」と位置付けている。 パリ協定第6条4項に基づくこのメカニズムは、以下の機能を担うよう設計されている。

  • 検証可能な削減・除去
    企業のネットゼロ目標達成や各国の国家目標(NDC)達成に貢献できる、高品質なカーボンクレジットを創出・認証する。
  • 適応資金への貢献
    カーボンクレジット収益の一部(Share of Proceeds)を、気候変動の影響を受けやすい途上国の適応支援に充当する。

UNFCCCによると、実務レベルでは進展も見られる。ホスト国の指定国家機関(DNA)によって承認されたCDMからの移行活動については、新たに立ち上げられたプラットフォーム「PACM情報システム(PACM-IS)」を通じて、追加書類の提出や手数料の支払いが可能になっている。しかし、制度全体を支える財政基盤の合意がなければ、こうしたシステムも機能不全に陥る恐れがある。

複雑化するCOP30の交渉

今回の対立は単なる会計上の問題にとどまらず、COP30におけるより広範な貿易や気候資金(クライメート・ファイナンス)の交渉ともリンクしているとされ、政治的な駆け引きの材料となっている可能性がある。

カーボンクレジットや炭素除去(CDR)技術への投資を加速させたい民間企業にとって、国連お墨付きの「6.4条市場」の遅延は、投資判断の不確実性を高める要因となる。COP30の会期末に向け、各国が資金移管問題で妥協点を見いだせるかどうかが、国際炭素市場の行方を左右する最大の焦点となる。

参考:https://www.reuters.com/sustainability/cop/funding-hitch-risks-delaying-un-backed-carbon-markets-launch-2025-11-19/

参考:https://unfccc.int/process-and-meetings/the-paris-agreement/article-64-mechanism#:~:text=This%20means%20that%2C%20under%20Article,it%20meet%20net%2Dzero%20targets.