IETAとPwC、「パリ協定6条」への信頼が急伸 VCMは高品位クレジットが市場の主導権を握る

村山 大翔

村山 大翔

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国際排出量取引協会(IETA)とPwCの最新の「GHG市場センチメント調査」によると、世界のカーボン市場は目先の政策の不確実性を抱えつつも、パリ協定第6条(市場メカニズム)への信頼が急激に高まり、「規律と透明性」を軸とした成長フェーズへ移行していることが明らかになった。特に、炭素除去(CDR)を含む高品位クレジットへの期待が高まっており、市場の構造的な変革を示唆している。

ブラジル・ベレンで開催中の第30回気候変動枠組条約締約国会議(COP30)において、2025年11月11日、国際排出量取引協会(IETA)と世界的大手コンサルティングファームのPwCが「2024/25年版 GHG市場センチメント調査」の結果を発表した。この調査は、世界のコンプライアンス市場とボランタリー市場で活動するIETA会員143名の見解を反映し、全体のムードは昨年の「高揚感」から「慎重な楽観論」へと変化した。しかし、パリ協定第6条の運用への信頼度が前年比で大幅に向上したほか、ボランタリー市場では高品位(ハイ・インテグリティ)クレジットの重要性が増しており、市場が信頼性の確保を軸に長期的な成長に向けて成熟しつつあることが示されている。

市場の軸足:「パリ協定6条」の運用へ

今回の調査で最も顕著な変化は、パリ協定第6条(市場メカニズム)に対する市場参加者の期待である。

  • 第6条への信頼急伸:回答者の91%が第6条を将来の気候変動対策の主要な推進力と見ており、これは2023年の45%から急激に上昇した。
  • 実運用が進展:スイス、ガーナ、ガイアナなどの国々が、二国間クレジットの移転(ITMO : Internationally Transferred Mitigation Outcomes)の承認をリードしており、第6条2項を通じたクレジット取引の「実運用」が進み始めている。

IETAの国際政策ディレクターであるアンドレア・ボンザンニ氏は、「市場メカニズムの力への継続的な信頼が見られるが、その可能性を最大限に引き出すには、より大きな明確性、能力、協調が求められている」と述べた。

焦点は「高品位クレジット」と炭素除去(CDR)の統合

市場の成熟に伴い、クレジットの品質と市場の誠実性(インテグリティ)がボランタリー市場(VCM: Voluntary Carbon Market)を再構築する核となる。

  • VCMの転換
    VCMは「品質と信頼」によって定義されるフェーズに入り、国際ボランタリー・カーボン市場統合委員会(ICVCM: Integrity Council for the Voluntary Carbon Market)の「コア・カーボン原則(CCP)」が市場に好影響を与え始めた。
  • 価格予測
    2024年の平均価格は軟化したものの、回答者の70%が2030年までに価格が上昇すると予想している。この上昇は、高品位クレジットと、コンプライアンス市場からの需要(CDRを含む)によって牽引される見通しである。
  • 排出量取引制度(ETS)とCDR
    欧州の政策立案者は、排出量取引制度(ETS)への**炭素除去(CDR)**の統合時期とコスト管理について議論しており、ETSの将来的な構造においてCDRクレジットが重要な役割を果たす可能性が示された。

PwCのカーボン市場リードであるサシュミタ・シーラム氏は、「今年の調査は、インテグリティと実行こそが2025年の合言葉であることを強調している」と指摘し、市場がより「信頼性が高く、相互接続され、より高品質なカーボンプライシング」へと向かう長期的方向性は明確であると述べた。

拡大するETSと不確実な国境炭素税(CBAM)

グローバルな排出量取引制度(ETS)は拡大傾向にある一方で、政策的な不確実性も残る。

  • ETSの地理的拡大
    欧州、英国、中国、韓国のETSスキームは対象セクターを拡大。ベトナムやチリなどの新興市場も導入へ向けて進展している。
  • CBAMへの複雑な感情
    欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、カーボンリーケージ(排出量流出)対策として必要だと見なされているが、その導入時期や世界的な採用の見通しについては不確実性が残ると回答された。

市場参加者は、ETSの継続的な成長と国際的な連携を支持しているものの、政策の統合スケジュールに対する自信は2023年以降弱まっている。市場のボラティリティは続くと見られるが、より規律的で透明性の高い市場への移行が、持続的な世界的成長の基盤となる。

参考:https://www.ieta.org/news/cautious-optimism-defines-global-carbon-market-outlook-in-2025-ieta-and-pwc-release-latest-ghg-market-sentiment-survey