11月10日、アマゾンの玄関口ベレンで第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)が開幕した。各国代表団と専門家数千人が集まり、地球温暖化を1.5度以内に抑えるための行動強化と、年間1兆3,000億ドル(約206兆円)規模の気候資金確保をめぐる協議が始まった。
国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は首脳会議で「もはや交渉の時ではない。実行、実行、そして実行の時だ」と訴え、各国に即時の行動を求めた。科学者によると、現行政策のままでは今世紀末までに気温上昇が2.3〜2.8度に達する恐れがある。
「1.3兆ドルへの道筋」 資金動員の中心にカーボンクレジット
今回の議論の中核となるのが、前回のCOP29(アゼルバイジャン・バクー)から引き継がれた「バクー・トゥ・ベレン・ロードマップ報告書」である。これは2035年までに年間1兆3,000億ドル規模の気候投資を動員するための行動計画で、
- 債務の気候投資化(Debt-for-Climate Swap)
- 汚染活動への課税強化
- 多国間気候基金(グリーン気候基金など)6機関の再強化
を柱としている。報告書では、投資条約に基づく企業による国家訴訟の撤廃も提案されており、既に349件で総額830億ドル(約13兆円)が各国政府に損害を与えたと指摘している。
この新たな資金構造改革の文脈で注目を集めるのがカーボンクレジット市場だ。COP29でパリ協定第6条に基づく国際取引ルールが整備されたことで、国境を越えたカーボンクレジット移転が容易になり、民間投資家の信頼を高める効果が期待されている。
ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)は2024年に約20億ドル(約3,100億円)規模に達し、2030年までに5倍へ成長する可能性がある。特に自然由来型および技術駆動型CDRクレジットへの需要が急増しており、ICVCMやVCMIが主導する「高信頼性基準」の普及が進んでいる。
債務危機と多国間開発銀行改革 「公的+民間」で資金拡大を
途上国の外債返済負担は2023年に1兆7,000億ドル(約270兆円)に達し、多くの国が教育や保健より利払いに予算を割く状況にある。ロードマップでは「リバランシング(財政余力の再構築)」を掲げ、債務の気候スワップや気候耐性債務条項の導入を提唱。加えて、多国間開発銀行(MDB)の資本効率化による貸出能力拡大を求めている。
各MDBが2030年までに年間3,900億ドル(約61兆円)を気候関連貸出に充てれば、途上国の資金コストを大幅に下げ、再生可能エネルギーや公正な移行(Just Transition)を支援できると試算されている。
「公正な移行」と先住民の役割 ブラジルが主導権
ブラジル政府は今回の議長国として、「ムチロン(mutirão、先住民語で“共同の取り組み”)」を合言葉に、全セクターを巻き込んだ実行体制を推進する方針だ。アマゾンを「世界最大の炭素吸収源」と位置づけ、森林保護と先住民コミュニティの権利強化を両立させる「気候正義」モデルを掲げている。
市民社会団体は、気候対策と社会的平等を同時に進める「ベレン行動メカニズム(Belém Action Mechanism)」の創設を提案。特に途上国や小島嶼国が、技術・資金・市場へアクセスできる新しい制度設計が焦点となっている。
NDCと適応指標 「実行の透明性」を問う
各国の新たな削減計画(NDC)は、現状では196カ国中わずか64カ国が更新を提出。2030年までに世界排出量を60%削減するには現行計画では10%にとどまる。
さらに今回、適応策の効果を可視化するため、100の共通指標の採択も予定されている。国連環境計画(UNEP)は、開発途上国が必要とする適応資金を満たすには現状の12倍の拡充が不可欠と警告する。
「約束から行動へ」 気候資金の試金石
COP30では次の4つの成果が試金石とされる。
- グリーン気候基金など主要基金の再補填計画
- 多国間開発銀行の改革期限と低利融資枠拡大
- 高信頼性の国際カーボンクレジット基準の確立
- 債務救済と気候投資促進を結ぶ新たな金融手段
これらの実現には政治的調整が不可欠だが、技術的には実行可能とされる。COP30は、気候資金を実際の炭素削減と除去(CDR)へつなげる転換点となるかが問われる。