アフリカ連合が「公正な炭素価格」を要求 COP30で年500億ドルの適応資金不足を直撃 炭素市場改革とアフリカ主導型CDR戦略

村山 大翔

村山 大翔

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11月17日、ブラジル・ベレンで開かれている国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)のアフリカ・デーにあわせ、アフリカ連合(AU)は世界の炭素市場の抜本的改革と、公正な気候資金メカニズムの確立を国際社会に求めた。アフリカは世界の炭素吸収源の約20%を保有する一方で、炭素取引収益の1%未満しか受け取っていない。AUはこの「構造的な不公平」を是正するため、自然資本の正当な価格付け、炭素市場ガバナンスの刷新、そして年500億ドル(約7兆5,000億円)の適応資金確保をCOP30での成果として提示した。

アフリカが突きつけた「構造的不公平」 炭素sinkの価値が評価されず

アフリカ連合の農業・農村開発・環境担当コミッショナー、モーゼス・ヴィラカティ氏は、アフリカが気候安定化に寄与する炭素吸収源の20%を担いながら、世界の炭素市場収益の1%未満しか得ていない現状を「構造的不公平」と指摘した。

同氏は「COP30では、この不均衡を是正する具体策が必要だ」と述べ、アフリカの森林、湿地、草原などの生態系サービスに対する公正な価格付けを求めた。また、外国仲介者に流出する炭素クレジット収益の大幅削減と、アフリカ主導の認証・取引制度の強化を訴えた。

年間500億ドルの適応資金要求 CDRと自然資本投資を柱に

AUは、気候変動の影響に最も脆弱とされるアフリカが受け取る適応資金が全世界の10%未満にとどまっているとし、最低でも年500億ドル(約7兆5,000億円)の資金拡大を求めた。

ヴィラカティ氏は、砂漠化防止と吸収量向上を同時に実現する「グレート・グリーン・ウォール」など、自然を基盤とした炭素除去(CDR)プロジェクトへの投資拡大を優先事項に掲げた。さらに、アフリカ各国が保有する自然資本を活用し、炭素除去と地域開発を両立させる資金モデルの普及を強調した。

アフリカ・デーが示した共通メッセージ “炭素価格の公平化”と“アフリカ主導の市場設計”

アフリカ・デーでは、AU、アフリカ開発銀行(AfDB)、国連アフリカ経済委員会(ECA)、アフレキシム銀行などが参加し、アフリカ主導の炭素市場設計と資金アクセス改革が主要テーマとなった。

議論では以下が焦点となった。

  • カーボンクレジットの公正価格(最低30ドル/t)をアフリカ基準として設定すること
  • 外部の検証機関依存から脱却し、アフリカ独自のレジストリと透明な取引基準を構築すること
  • 炭素市場改革により2030年までに1,000億ドル(約15兆円)の収益創出と500万人のグリーン雇用創出を実現すること

ECAのコスマス・ミルトン・オチエン氏は「公正な金融アーキテクチャの再構築は生存の前提条件だ」と述べ、資金が直接アフリカのコミュニティに届く仕組みの必要性を強調した。

炭素市場の「収益流出」問題 最大90%が域外へ

アフリカのカーボンクレジットは、仲介機関や外国検証機関の手数料によって最大90%の収益が域外に流出している。たとえば、ケニアの森林カーボンクレジットは1トンあたり30ドルで取引されても、地元コミュニティに渡るのは3〜5ドル程度にとどまる。

AUは、Africa Action Plan on Carbon Markets(アフリカ炭素市場行動計画)に基づき、域内取引所の整備、透明性の高い計測・報告・検証(MRV)システムの導入、そしてアフリカ連帯の炭素市場ルールを構築する方針を示した。

国内資金3500億ドルの活用も焦点 アフリカ内資本の循環へ

アフリカには約3,500億ドル(約52兆円)の年金基金・ソブリン資金が存在するが、多くが域外投資されている。AUは、これらの資金を炭素除去技術、自然再生、グリーンインフラに振り向けることで、外部依存から脱却し、アフリカが自立的に自然資本を収益化する体制を構築する必要性を強調した。

COP29で未達の約束 ローン偏重への不満が噴出

AUは、前回のCOP29で合意された資金の多くがローンに依存し、アフリカ諸国に債務負担を残したことへ強い不満を表明した。アフリカ向け3000億ドル(約45兆円)制度の多くが実行されず、損失と損害(L&D)基金も必要額の0.2%しか確保されていないと指摘した。

COP30では、「支援」ではなく「対等なパートナーシップ」、そしてアフリカ主導で資金を管理し、自然資本とCDRの価値が正当に評価される仕組みを求めている。

若者主導のCDR経済へ アフリカが掲げる次の10年

ヴィラカティ氏は、アフリカの若者が革新的なCDR技術や循環型経済の担い手になると強調し、アフリカは「受益者」ではなく「気候解決の設計者」として位置付けられるべきだと述べた。

アフリカ・デーの締めくくりで、AUは以下をCOP30の優先課題として掲げた。

  • 公正な炭素価格付け
  • アフリカ主導の炭素市場ガバナンス
  • 年500億ドルの適応資金確保
  • 自然資本とCDRを軸にした経済モデルへの転換

COP30の会期は続いており、各国が12月中旬までにどこまで合意を深められるかが焦点となる。

参考:https://au.int/sites/default/files/newsevents/conceptnotes/45646-CN-Final_Concept_note_Africa_Day_-Eng_1_0.pdf

参考:https://www.afdb.org/en/news-and-events/press-releases/africa-day-cop30-advancing-sustainable-financing-green-and-resilient-future-88571