英Cool Planet、膜分離型CO2回収の大型化に成功 独ホルシム工場で年3.7万トンCO2除去の実証へ

村山 大翔

村山 大翔

「英Cool Planet、膜分離型CO2回収の大型化に成功 独ホルシム工場で年3.7万トンCO2除去の実証へ」のアイキャッチ画像

英国を拠点とする気候テック企業、クール・プラネット・テクノロジーズ(Cool Planet Technologies)は12月10日、同社が開発する膜分離方式の二酸化炭素(CO2)回収モジュールについて、商用規模に近い大型機での性能試験に成功したと発表した。単一モジュールで年間3万7,000トンのCO2回収に相当する処理能力を発揮しつつ、回収効率95%を達成したという。この成果を受け、同モジュールはドイツにあるセメント世界大手ホルシム(Holcim)の工場へ移送され、商用化に向けた最終段階の実証運転に入る。

スケールアップの「壁」を突破

今回の試験は、パイロット段階の小型装置と本格的な商用プラントとの間にある技術的・経済的なギャップを埋めることを目的として実施された。一般に、化学吸収法など他のCO2回収技術と同様、膜分離方式においても装置の大型化(スケールアップ)に伴う性能低下が懸念されるが、今回の第3世代モジュールはその不確実性を払拭する結果を示した。

試験では、セメント、石灰、鉄鋼、廃棄物発電といった排出削減困難(Hard-to-Abate)セクターの実際の排ガス条件を模倣。その結果、小規模試験と同等の性能特性を維持しながら、年間3万7,000トン規模の処理が可能であることが確認された。

また、エンジニアリングチームによると、実際の稼働データは事前のシミュレーション結果と極めて高い精度で一致したという。これにより、プラントレベルでの回収性能を予測するデジタルツールの信頼性が裏付けられ、プロジェクト開発者が直面する技術的リスクやコスト試算の精度向上が期待される。

独ホルシム工場で1年間の長期実証へ

今回の成功を受け、クール・プラネットは英グリムズビーの施設を重工業界の20社以上に公開し、実機の稼働を披露した。欧州の石灰メーカーとも追加試験を実施しており、既存のキルン(焼成炉)への導入に向けた準備が進んでいる。

当該モジュールは今後、ドイツにあるホルシムのヘーファー(Höver)セメント工場へと移送される。同工場では、技術成熟度レベル(TRL)を最高段階の「8」へと引き上げることを目指し、1年間にわたる長期の実証プロジェクトの中核として稼働する予定だ。

クール・プラネットのアンドリュー・コーナー最高経営責任者(CEO)は声明で次のように述べた。 「この成果は長年の技術革新を裏付けるものであり、クール・プラネットを低コストかつ拡張可能な産業用炭素回収ソリューションの最前線に位置づけるものだ。英国での試験は、我々の技術の性能と堅牢性を確認しただけでなく、世界の脱炭素目標達成に向けた業界の信頼を大幅に強化した」

膜分離方式の優位性と市場へのインパクト

クール・プラネットが採用する膜分離技術は、独ヘルムホルツ研究所(Helmholtz Zentrum Hereon)が開発した技術をベースとしている。化学薬品(アミン溶液など)を使用する従来方式に比べてエネルギー消費が少なく、再生可能エネルギー電力のみで稼働できる点が特徴だ。

また、モジュール形式であるため、既存工場への後付けや段階的な増設が容易である。セメントや鉄鋼業界では、発生するCO2を回収してクレジット化する、あるいは地下貯留(CCS)するためのコスト削減が急務となっており、今回のスケールアップ成功は、実装コストの低減に向けた重要なマイルストーンとなる。

参考:https://www.linkedin.com/posts/cool-planet-technologies_carboncapture-ccs-carboncredits-activity-7404137002457059329-36Us

参考:https://coolplanettech.com/wp-content/uploads/2025/12/Membrane-Module-Test-Final.pdf