CO2除去コストの評価額「2021年比で上昇」 英研究機関などが2025年版報告書

村山 大翔

村山 大翔

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英国を拠点とする温室効果ガス除去(GGR)の研究拠点であるCO2RE Hubと、持続可能性コンサルティング大手のERMは12月3日、2025年版のGGRコストに関する報告書を発表した。2021年の初回報告から4年を経て更新された本調査では、多くのGGR技術におけるコスト見積もりが、前回確立された基準と比較して上昇していることが明らかになった。市場データの可用性が向上し、従来不確実だった要素が明確になったことが、評価額上昇の主な要因と分析されている。

データの精緻化がもたらした「コスト上昇」

報告書の著者は、今回確認されたコスト見積もりの上昇について、GGR分野における実データの入手性が大幅に改善されたことに起因すると指摘した。 開発初期段階にあった技術の実装が進み、不透明だったプロセスが可視化されたことで、より現実的かつ精緻なコスト算出が可能になった。その結果、理論値や概算に頼っていた2021年時点よりも、見積額が高くなる傾向が見られた形だ。これは市場が成熟に向かう過程での「健全な再評価」とも解釈できる。

輸送・貯留とMRVが主要なコスト要因

コスト構造の内訳において、依然として大きな割合を占める要素も特定された。 著者は、回収したCO2の輸送と貯留、そして炭素除去の品質を担保する「測定・報告・検証(MRV)」のプロセスが、ほとんどのGGR手法において主要なコストドライバーであり続けていると強調した。特に、高品質なカーボンクレジット生成に不可欠なMRVの厳格な運用が、事業コストの下限を規定している現状が浮き彫りになっている。

DACCSやバイオ炭など技術別に細分化

2025年版報告書では、従来よりも分析の粒度(解像度)を高め、主要なGGR手法をサブカテゴリーごとに評価している。

  • 直接空気回収・貯留(DACCS
    液体吸収剤と固体吸着剤の技術特性ごとのコスト現実をレビュー。
  • バイオ炭(Biochar)
    多年生作物、木質廃棄物、家庭廃棄物など、原料(フィードストック)の違いによるコスト差を精査。
  • バイオエネルギー・炭素回収貯留(BECCS
    発電用、廃棄物エネルギー利用に加え、フィッシャー・トロプシュ(FT)合成燃料プラントの改修を含む新カテゴリーも網羅。

この多角的なアプローチにより、同じ「炭素除去」という枠組みの中でも、手法や技術形式によって著しい価格差が存在することが解明された。これにより、投資家や政策立案者がより精度の高い意思決定を行える環境が整いつつある。

比較・評価のための「標準化」が急務

ERMによるコスト分析に加え、CO2REはGGR分野の発展に必要な課題についても言及している。 報告書は、多様なGGR手法を横断的に比較・評価するために、評価基準の「標準化」が不可欠であると結論付けた。また、ビジネスモデルの前提条件の違いや、GGRの社会実装(スケールアップ)を後押しする法規制の整備など、技術的コスト以外の重要な要因についても注視する必要があると訴えている。

参考:https://co2re.org/wp-content/uploads/2025/11/CO2RE-and-ERM-GGR-cost-updates-2025.pdf