ノルウェーのクライメートファイナンステックClimeFiは17日、パリ協定6条2項に基づく初の欧州域内ITMO(国際的に移転された緩和成果)移転を構築した。ノルウェーで永久貯留された二酸化炭素除去(CDR)量をスイス側へ移し、規制下での「越境カーボン取引」を実務レベルで初めて具現化した。
今回のパイロットはスイス連邦環境局(FOEN)が主導し、スイス インターナショナル エアラインズ、スイス郵便、スイス再保険、UBS、チューリッヒ州立銀行の5社が購入者として参加した。ClimeFiは商業面を束ね、住友商事を通じてバイオマス起源のCDR企業 Inherit Carbon Solutions(ノルウェー)を選定し、案件調査と専用契約を締結した。
FOENのマルクス・モルガー 事務局長は「6条2項の実運用は『透明で信頼できる市場』形成の一里塚だ」と述べた。住友商事エネルギーイノベーション本部の山田 本部長は「日本企業として培ったバリューチェーン構築力を生かし、欧州CDR市場の拡大に貢献する」と語った。ノルウェー石油エネルギー省のインガ・アーセン政務官も「北海域の地質貯留を欧州域内の気候目標達成に生かせる」と評価した。
両国は2022年に環境協力覚書を締結し、23年からITMO試行の技術委員会を設置。24年12月のCOP29に向け、CDR・CCSを含む越境排出量計算手順を整備してきた。今回の契約はその成果を初めて民間主体に適用した形だ。
移転対象は年300tのCO2除去量(削減クレジットに換算して300ITMO)。購入価格は公表されていないが、業界指標の1t当たり180ドル(約2万8,500円)を想定すると総額5万4,000ドル(約770万円)規模となる。住友商事は取引保証及び精算業務も担う。
EU域内排出量取引制度(EU ETS)は現状CCS・CDRを一部しか組み込まず、各国が6条2項で独自に取引枠組みを整える動きが活発だ。英政府は25年にも北海CCSを対象とする二国間協定を検討しており、域内での制度競争が始まる。
今後の焦点 ClimeFiは26年までに年間1 万 t規模のITMO交換を目指す意向を示す。両国と住友商事は今年11月のCOP30(ブラジル)に向け、追加パイロットを発表する見通しで、クレジット会計の自動化手順が次の検討課題となる。