「追加性欠如を指摘」オーストラリア環境団体がカーボンクレジットスタートアップのAetiumの事業手法を当局通報

村山 大翔

村山 大翔

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オーストラリアのアドボカシー団体クライメート・インテグリティー(Climate Integrity)は2026年1月19日、カーボンクレジット取引プラットフォームを運営するエイティアム(Aetium)の事業手法が消費者を誤認させるグリーンウォッシュに該当するとして、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)などの規制当局に公式な通報を行った

同団体は、エイティアムが既存の太陽光パネルや電気自動車(EV)の利用をカーボンクレジット化している点について、温室効果ガス(GHG)の削減効果が実質的に存在しない「追加性の欠如」を指摘している。本件は、2025年に発生したエネルギー・オーストラリア(EnergyAustralia)によるカーボンオフセット製品を巡る和解事例に続く、同国市場の健全性を問う重要な局面となる。

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エイティアムは、一般消費者が既に所有している太陽光パネルやEV、既存の森林を対象に、オンラインプラットフォームを通じて独自のカーボンクレジットを発行し、排出量をオフセットしたい個人や企業に販売する事業を展開している。

同社は「二酸化炭素(CO2)を積極的に回避・除去するプロジェクトを支援できる」と主張しているが、クライメート・インテグリティーの調査によれば、これらのクレジットは政府公認の制度や第三者機関による認証を一切受けていない

同団体が最大の懸念として挙げているのが、カーボンクレジットの根幹を成す追加性(Additionality)の概念である。追加性とは、カーボンクレジット創出による収益などのインセンティブがなければ、その削減活動が実現しなかったことを示す指標を指す。クライメート・インテグリティーのエグゼクティブ・ディレクターを務めるクレア・スナイダー氏は、「エイティアムの仕組みに参加する消費者は、同社が存在するかどうかにかかわらずEVや太陽光パネルを購入・利用していたはずであり、追加性のテストを満たさない」と指摘した。

また、エイティアムが採用している「排出回避(Avoided Emissions)」という方法論についても、科学的な妥当性に疑問が呈されている。これは、仮想的な高排出シナリオと比較して排出を抑えたと主張するものだが、実際の排出量を物理的に削減するものではない。スナイダー氏は、「排出回避型のオフセットでは排出を打ち消すことはできず、環境的利益を謳うことは消費者を誤解させる可能性が高い」と述べ、ACCCに加えて広告基準管理団体のアド・スタンダーズ(Ad Standards)にも苦情を申し立てた。

エイティアムは、オーストラリア炭素市場研究所(Carbon Market Institute(CMI))が定める業界行動規範の署名メンバーであることを信頼の証として広告に利用していた。しかし、CMI側はクライメート・インテグリティーの照会に対し、「当規範はカーボンクレジットの技術的な品質を規制・評価するものではない」と回答しており、専門的な知見を持たない消費者保護の網が機能していない実態が露呈した。

今後の焦点は、ACCCがエイティアムの広告表示を「誤解を招く不当な表示」と判断し、法的措置に踏み切るかどうかに移る。ボランタリーカーボンクレジット市場に対する公的な規制が存在しない現状において、今回の当局の判断は、家庭用資産を安易にクレジット化する「低品質クレジット」の排除に向けた重要な判例となる可能性がある。

本件で焦点となっている「追加性」の解釈は、現在の炭素市場において最も激しい議論が交わされている領域の一つである。

クライメート・インテグリティーは「既存資産の利用は追加性がない」と断じているが、一方で世界最大の認証機関であるベラ(Verra)や、日本のJ-クレジット制度においても、森林管理や再生可能エネルギーの導入といった「回避・削減系」のプロジェクトは依然として主要なカテゴリーとして扱われている。

世界的に見て、排出回避型クレジットが全否定されているわけではない点は留意が必要だ。

また、今回の動きはあくまで一環境団体による異議申し立てというフェーズに留まっている。エイティアム側が主張するように、追加性の判定基準には解釈の余地があり、科学的見地とビジネスモデルの境界線は今なお揺れている。

今後、オーストラリア政府や規制当局がどのような法的判断を下すかは未知数であり、その結論次第では「家庭向けクレジット」という新市場の可能性が大きく左右されることになるだろう。

投資家や事業者は、感情的なグリーンウォッシュ批判に過剰反応するのではなく、当局による「追加性」の再定義を冷静に見極める必要がある。

参考:https://climateintegrity.org.au/aetium