米国を拠点とする主要なカーボンクレジット登録機関であるクライメート・アクション・リザーブ(Climate Action Reserve:CAR)は2026年1月5日、アジア市場の開発を統括する地域ディレクターに、市場の第一人者であるコマール・シンハ氏を起用したと発表した。
これは同機関にとって初のアジア太平洋(APAC)地域専任ポストの設置となる。世界全体の二酸化炭素(CO2)排出量の51パーセントを占めるアジアにおいて、信頼性の高いカーボンクレジットの普及と、各国の規制市場およびパリ協定第6条に基づく枠組みへの統合を加速させる狙いがある。
新しく就任したシンハ氏は、グローバルサウスを中心に高完全性な炭素クレジットプログラムや環境政策を推進してきた16年以上の経験を持つ。
直近では別の主要なカーボンクレジット登録機関でアジア太平洋地域の政府関与・政策担当シニアディレクターを務め、ボランタリークレジット市場の規格と各国のコンプライアンスクレジット市場、およびパリ協定第6条の枠組みを統合する戦略を主導した経歴を持つ。同氏は過去にリパーパス・グローバル(rePurpose Global, Inc.)のグローバル・サステナビリティ担当ディレクターや、クライメートケア(ClimateCare Limited)のパートナーシップ責任者も歴任している。
シンハ氏は今後、APAC地域における戦略的政策の策定やパートナーシップの構築、および同機関の市場開発戦略の推進を担う。クライメート・アクション・リザーブ(CAR)は現在、中国向けのプロトコルを運用しており、インド向けの新たなプロトコル開発も進めている。同地域は経済成長に伴い排出量が増大している一方で、排出削減および炭素除去(CDR)の潜在能力が極めて高く、スケーラブルな気候変動ソリューションへの資金動員が急務となっている。
今回の人事について、クライメート・アクション・リザーブ(CAR)の市場開発担当ディレクターであるエイミー・ケスラー氏は「アジアは炭素市場において重要なプレーヤーになりつつある。シンハ氏が持つ独自の経験と専門知識は、同地域で高品質なカーボンクレジットの発行を促進する上で大きな力になる」と述べた。ケスラー氏はさらに、地方自治体や現地関係者と密接に協力し、管轄区域の政策や商習慣を考慮したコンテキスト重視のプロトコルを実装することで、高い誠実性とインパクトを維持する姿勢を強調した。
シンハ氏は、アジア太平洋地域がボランタリー市場と規制市場の両面で急速に焦点となりつつある現状を指摘した上で「市場の収束が進む中、当機関の管轄区域アプローチや地域関連のプロトコル、規制市場での豊富な経験は、このダイナミックな地域で気候アクションを推進するための強力な武器になる」と述べた。同氏は今後、各国の政府や市場参加者と連携し、国家の気候目標と企業の行動を共に支える高品質な炭素資金の動員を目指す。
クライメート・アクション・リザーブ(CAR)は、カリフォルニア州やワシントン州、さらには国際的な規制市場を支える非営利の環境団体であり、透明性の高い登録システムを通じてクレジットを発行している。アジア市場における次なる大きな節目は、開発中のインド向けプロトコルの公開時期と、パリ協定第6条に基づく二国間クレジット制度との連携の具体化になると見られる。
今回のクライメート・アクション・リザーブ(CAR)によるアジア専任ディレクターの任命は、世界の炭素市場における主戦場がアジアへ移行しつつあることを象徴している。これまではベラ(Verra)やゴールドスタンダード(Gold Standard)が先行していたアジア市場だが、北米の規制市場で強固な実績を持つCARが地域拠点を強化したことで、市場の「質」を巡る競争は一段と激化するだろう。
特に注目すべきは、シンハ氏が「ボランタリー市場と規制市場の収束」を強調している点だ。これは、日本が進めるJ-クレジットやGXリーグ、さらには二国間クレジット制度(JCM)にも直結する動きである。
今後は、民間の自主的な取り組みが、いかにして国家間の調整や規制枠組みと整合していくかが、プロジェクト組成の成否を分ける鍵となる。
アジアでのプロジェクト開発を検討している日本企業にとって、CARのような有力な登録機関が地域の文脈に沿ったプロトコルを整備し始めたことは、予見可能性を高めるポジティブなニュースと言えるだろう。


