カーボン・ビジネス・カウンシル(Carbon Business Council:CO2BC)と非営利マーケティング団体のポテンシャル・エネルギー・コーリション(Potential Energy Coalition)は2026年2月12日、炭素除去(CDR)に関する「メッセージング・用語ガイド(Messaging and Lexicon Guide)」を公開した。
本ガイドは、米国と英国の計1万2,000人以上を対象とした大規模な世論調査に基づき、CDR技術に対する公衆の理解を深め、社会的受容性を高めるための具体的な言語戦略を提示している。
今回の指針策定にあたって実施された調査(米国5,700人、英国6,300人が回答)では、CDRという言葉自体を知っている成人は約半数にのぼるものの、その内容を詳しく理解しているのは6人に1人に過ぎないという実態が明らかになった。しかし、簡潔で明確な説明を受けた後では、回答者の約3分の2がCDR導入を加速させるための政府の行動を支持すると回答している。
ガイドでは、CDRを説明する際の最適なアプローチとして、複雑な工学的詳細や専門用語(アクロニム)を避け、「地球の自然なバランスを回復させる」という文脈で語ることを推奨している。具体的には以下の原則が挙げられた。
- 問題の明確化
「排出目標」などの抽象的な概念ではなく、「過去数十年の汚染により、空気中に二酸化炭素が増えすぎている」という事実から説明を開始する。 - 馴染みのあるシステムとの関連付け
海洋、岩石、大気、植物といった、一般市民にとって身近な自然の仕組みを通じた説明が最も受け入れられやすい。 - 経済的利益と環境影響の結合
単なる経済効果の強調ではなく、土壌の健康増進や持続可能な雇用の創出など、気候へのプラスの影響と結びついた利益を提示することが効果的である。
特筆すべき点として、情報の送り手による信頼度の差が挙げられる。
調査データによると、科学者やCDRの実践者が最も信頼されるメッセンジャーである一方、政府や企業は「説明を主導する立場」よりも、プロジェクトの「資金提供者」としての役割を期待されていることが判明した。言葉の選択をわずかに変えるだけで、支持率が10%以上向上するケースも確認されており、戦略的なコミュニケーションの重要性が浮き彫りとなっている。
CDRは現在、世界各地でプロジェクトが立ち上がり、政策枠組みの整備が進む段階にある。しかし、公衆の理解が技術の進展スピードに追いついていないことが、プロジェクト推進のボトルネックとなる懸念がある。本ガイドは、透明性の高い対話を促進し、CDRが「単なる排出削減の代替案」ではなく、不可欠な気候ソリューションとして定着することを目指している。
日本国内においても、ブルーカーボンやバイオ炭、直接空気回収(DAC)などCDRへの注目が高まっているが、地域住民との合意形成や「グリーンウォッシュ」への懸念が課題となっている。
本ガイドが示す「自然のバランス回復」というナラティブは、日本の環境倫理とも親和性が高く、企業がサステナブル情報開示やJ-クレジットの創出プロジェクトを説明する際の強力なフレームワークとなるだろう。
技術の優位性だけでなく、いかに「共感」を呼ぶ言葉を紡げるかが、日本のCDR市場の成否を分ける。
参考:https://www.carbonbusinesscouncil.org/news/carbon-dioxide-removal-lexicon-guide
