炭素除去(CDR)の社会実装を加速させる非営利団体カスケード・クライメート(Cascade Climate)は2026年2月17日、岩石風化促進(ERW)の科学的知見を深化させるための「共同研究ネットワーク(CRN)」を立ち上げ、実証サイトを運営する研究機関の公募を開始した。世界各地で最大15カ所の標準化されたサイトを設置し、気候や土壌による炭素吸収効率の差異を解明する狙いがある。
ERWは、農地に玄武岩などの岩石粉末を散布することで、雨水と反応させて大気中のCO2を吸収・固定する技術である。炭素除去と同時に土壌の質を改善する効果も期待されているが、気候条件や測定手法によって吸収量の推計にばらつきがあることが課題となっていた。
今回の計画では、まず2026年に1〜2カ所のパイロットサイトを稼働させ、今後5年間で最大15カ所まで拡大する。カスケード・クライメートは、すでに慈善団体から今後5年間にわたる運営資金を確保している。選定された機関には、設備投資や人件費を含む運営資金が提供されるほか、世界トップクラスのERW研究コミュニティへのアクセス権が付与される。
本ネットワークの最大の特徴は、測定プロトコルとデータ形式の完全な標準化である。これまでERWのプロジェクトは個別に行われることが多く、データの互換性が欠如していた。CRNでは、土壌化学の変化やポアウォーター(間隙水)の分析、イオン交換樹脂を用いた測定などを同一基準で実施し、世界的なデータセットを構築する。これにより、これまで不透明だった「深層土壌での炭素の挙動」や「収穫量への具体的な影響」を科学的に立証することを目指す。
公募の締め切りは2026年3月10日で、特にブラジル、インド、ケニア、東南アジアなど、風化ポテンシャルが高く、農地としての利用価値が高い地域が優先される方針だ。
ERWは、森林由来のカーボンクレジットに代わる「高恒久性」なカーボンクレジットの供給源として、マイクロソフト(Microsoft)などの大手テック企業からも強い関心を集めている。
今回のネットワーク構築により、科学的根拠に基づいたMRV(計測・報告・検証)体制が確立されれば、カーボンクレジット市場におけるERWの信頼性は飛躍的に高まると予想される。
今回の動きは、単なる研究支援ではなく、ERW由来のカーボンクレジットの「世界標準」を確立しようとする戦略的な試みである。日本企業にとっても、土壌分析センサーや高精度な気候モデル、さらには高品質なCDRクレジットの調達という観点で大きな意味を持つ。
特に、MRVの標準化が進むことで、将来的に中小規模の農業関連企業が炭素市場へ参入する際のハードルが下がる可能性があり、今後の研究成果には注視が必要だ。
