カナダ政府、「牛のメタン排出削減」新オフセット制度を発表 飼料改善などで排出量差をクレジット化

村山 大翔

村山 大翔

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カナダ環境・気候変動省は10月、牛の反芻過程で発生するメタン排出を削減する取り組みを対象にした「牛の腸内メタン排出削減(Reducing Enteric Methane Emissions from Beef Cattle)」連邦オフセットプロトコル第1版を公表した。2017年1月以降に開始された飼料改良や管理改善などの活動が対象となり、削減量に応じて温室効果ガス(GHG)オフセットクレジットが発行される。

本プロトコルは、牛の第一胃(ルーメン)で起きる発酵過程で発生するメタンを対象に、排出削減量を定量的に評価し、クレジット化する初の全国統一制度である。牛の飼料組成や成長率、飼育管理方法を改善し、腸内発酵によるメタン排出を低減することを目的としている。

対象は、アルバータ州を除くカナダ全土の肥育牛飼育施設で、過去3年間にわたり牛が飼育されていた場所で実施されるプロジェクトに限られる。プロジェクト活動として認められるのは、飼料管理の高度化、配合飼料の再設計、成長促進剤の利用、その他の革新的手法などである。ただし、放牧牛や乳牛を対象とするプロジェクト、または抗メタン性飼料添加物や腸内改変剤を利用するものは現時点で適用外とされている。

排出削減量は、ベースライン(従来の飼育法)とプロジェクト実施後の排出強度(牛肉1キログラムあたりのGHG排出量)の差に基づいて算定する。評価対象となるのは、腸内メタン、糞尿由来のメタンおよび一酸化二窒素(N2O)の排出である。この方式により、飼養頭数が年ごとに変動しても排出削減分をオフセットクレジットとして認定できる仕組みとなっている。

プロジェクト実施者は、飼料量・栄養組成・成長率などのデータを継続的に測定・記録し、年次または最大3年ごとに報告書を作成する必要がある。報告内容は認定検証機関による第三者検証を受けなければならない。

さらに、発行クレジットの3%は「環境完全性口座(Environmental Integrity Account)」に積み立てられ、制度全体の信頼性を担保する。クレジット発行期間は10年で、最大2回の更新が可能とされている。また、同一削減量について他の制度で重複してクレジットを取得することは禁じられ、プロジェクト実施者が排出削減に対する排他的権利を有することが条件となる。

今回のプロトコルは、カナダ連邦の温室効果ガスオフセットクレジット制度の一環として位置づけられ、農業分野における新たな炭素市場の形成を後押しするものとみられる。牛由来のメタンはカナダの農業排出の約25%を占めるとされ、炭素クレジット化により農家の脱炭素投資を誘発する効果が期待されている。

参考:https://www.canada.ca/en/environment-climate-change/services/climate-change/pricing-pollution-how-it-will-work/output-based-pricing-system/federal-greenhouse-gas-offset-system/overview-reducing-enteric-methane-emissions-beef-cattle.html