カリフォルニア州SAF減税案に「待った」 カーボンクレジット換算170ドル超の低効率を指摘

村山 大翔

村山 大翔

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2026年2月24日、米カリフォルニア州議会予算分析局(LAO:Legislative Analyst’s Office)は、ギャビン・ニューサム知事が提案した持続可能な航空燃料(SAF)への税額控除案を「費用対効果が極めて低い」として拒否するよう勧告した。この減税措置による二酸化炭素(CO2)削減単価は、カーボンクレジットの市場価格を大きく上回る1トンあたり170ドル(約2万5,500円)以上に達すると試算されている。

LAOの分析によると、提案されているSAF税額控除は、温室効果ガス(GHG)排出削減戦略として著しく非効率である。現在、カリフォルニア州の「キャップ・アンド・トレード」制度における排出枠価格は1トンあたり30ドル(約4,500円)未満、低炭素燃料基準(LCFS)に基づくカーボンクレジット価格は50〜70ドル(約7,500〜1万500円)で推移している。これに対し、SAF減税による削減コストは170ドル(約2万5,500円)を超え、既存のカーボンクレジット制度を活用するよりもはるかに高コストな手法となっている。

LAOは、この政策が実質的な排出削減に繋がらない「燃料のシャッフル(すり替え)」を引き起こす可能性を指摘している。現在、多くの精製所は同じ原料からSAFと再生可能ディーゼル(RD)の両方を生産できる。SAFに多額の補助金を投入すれば、生産者がRDからSAFへと生産を切り替えるだけで、トータルの再生可能燃料供給量や環境価値(カーボンクレジット創出量)が増加しない恐れがある。

財政面の影響も深刻だ。ニューサム知事の提案では、SAF生産者に対し1ガロンあたり1〜2ドルの税額控除を認める。これにより、ディーゼル燃料税収が当初は年間1億6,500万ドル(約248億円)、長期的には年間3億ドル(約450億円)減少すると予測されている。

この減収は、州憲法で使途が限定されている交通インフラ予算を直撃する。具体的には以下の影響が見込まれている。

  • 州高速道路の維持・リハビリテーション計画(SHOPP)
    年間7,000万ドル(約105億円)の削減。
  • 地方道路整備
    市町村向け配分が年間4,900万ドル(約74億円)減少。
  • 貿易回廊強化プログラム(TCEP)
    年間4,600万ドル(約69億円)の削減(予算の約9%に相当)。

航空セクターは脱炭素化が最も困難な分野(ハード・トゥ・アベート)の一つとされ、SAFはその切り札と期待されてきた。しかしLAOは、他の安価な削減手段がまだ存在する段階で、航空分野にこれほど高額な公的資金を投じる妥当性は低いと結論付けた。今後、州議会がこの勧告を受け入れるかどうかが焦点となるが、カーボンクレジットの価格整合性を重視する市場重視の視点が、今後の気候変動政策の大きな壁となる可能性がある。

本件は「航空の脱炭素化」という大義名分があっても、カーボンクレジットの市場価格から乖離した過度な補助金は、公的資金の配分として正当化しにくいことを示している。北米進出やSAF事業を検討する日本企業にとっては、単なる補助金頼みの事業計画ではなく、既存のカーボンクレジット制度(LCFS等)との整合性や、削減単価の競争力を厳格に評価する必要があるだろう。

参考:https://lao.ca.gov/Publications/Report/5139#:~:text=According%20to%20the%20administration%2C%20the,possible%20approaches%20to%20reducing%20GHGs.