「気候変動を軽視する米連邦政府不在」を好機に カルフォルニア州知事、トランプ批判&COP30で新協定署名し「排出量取引」推進へ

村山 大翔

村山 大翔

「「気候変動を軽視する米連邦政府不在」を好機に カルフォルニア州知事、トランプ批判&COP30で新協定署名し「排出量取引」推進へ」のアイキャッチ画像

ブラジル・ベレンで開催中の第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)において、米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)は、ドナルド・トランプ大統領(共和党)が米国代表団の派遣を見送った「空白」を埋める形で精力的に活動している。

同知事は11月12日、トランプ大統領の気候変動政策を「忌まわしい」「侵略的外来種」と激しく非難すると同時に、州レベルの行動が気候変動対策の主導権を握る好機であると強調。COP30現地でブラジル・パラ州やナイジェリアなどとの間で新たな協定に署名し、その一環として市場ベースの炭素価格設定プログラムの推進を明確に打ち出した。

ブラジル・ナイジェリアと新協定「炭素市場」を前進へ

COP30に参加した米国最高位の政治家であるニューサム知事は、世界経済の約4分の1を占める米国内24州の連合「米国気候同盟(US Climate Alliance)」の共同議長として、サブナショナルレベルでの気候変動対策へのコミットメントを強く表明した。

知事は会議2日目、ブラジル・パラ州との間で森林火災の予防と対応に関する覚書(MOU)に署名。これに加えて、2025年に署名したブラジル政府とのMOUでは、市場ベースの炭素価格設定プログラムの推進、ゼロエミッション車や低炭素燃料を含むクリーン輸送の拡大、自然ベースの解決策(NbS)を通じた2030年までの土地・沿岸水域の30%保全など、カーボンクレジットおよび炭素市場の要素に直結する分野での協力強化が合意された。

さらに、ナイジェリアとの間でも持続可能な都市交通、グリーンポート、低炭素輸送燃料などに関する新たなMOUを締結。ナイジェリア側が新しい大統領気候評議会と炭素市場の枠組みを持つことについても議論が交わされた。

これらの協定は、カリフォルニア州がすでに導入しているキャップ・アンド・トレード制度などの炭素価格メカニズムを国際的に連携・拡大させる戦略の一環と見られる。カリフォルニア州は温室効果ガス排出量を2000年比で21%削減しながら、州のGDPを81%増加させ、現在では世界第4位の経済規模を持つことを実績として強調し、「経済成長と気候変動対策の両立」が可能であると主張している。

トランプ政権の「不在」が地方自治体に機会創出

ニューサム知事は、トランプ大統領が気候変動危機を「詐欺」と呼び、COP30への代表団派遣を拒否したことに対し、「侵略的外来種」「忌まわしい」と表現し、強く非難を浴びせた。

一方で知事は、米連邦政府の不在は、地方のリーダーが気候政策の主導権を握る「機会」を生み出すと指摘。「邪魔なものが道になる。これは地方レベルからボトムアップで自己主張する好機だ」と述べ、連邦政府の撤退を州レベルでの行動を強化する契機とする姿勢を示した。

パリ協定の立役者の一人であるクリスティアナ・フィゲレス元国連気候変動枠組条約事務局長も、トランプ政権の不在を「実際には良いことだ」と発言しており、国際的な場においても連邦政府の強硬的な姿勢が交渉を阻害しかねないとの懸念が背景にある。

次期大統領選への布石とメッセージの再構築

2028年の民主党大統領候補として有力視されるニューサム知事は、気候変動に関する議論を「雇用や経済」から、「生活費」や「保険料の高騰」といった一般家庭が直面する直接的な問題へと焦点を移すべきだと提言した。これは、先行するジョー・バイデン前大統領(民主党)のクリーンエネルギー政策が雇用創出を訴えたものの、有権者に十分浸透しなかったことを反省点としている。知事は、「人々が理解できる言葉、人々の生活、場所、ライフスタイル、伝統に焦点を当てれば、勝利し始められる」と述べ、より身近な視点からの政策提唱の必要性を訴えた。

今後、カリフォルニア州は、デンマークとのデータセンターの脱炭素化、ケニアとの低炭素開発計画、オーストラリアとの排出ガス基準策定など、既存の国際連携をテコに、州レベルでのCDR技術の共同研究や炭素市場のさらなる国際連携を次期国会で推進する見通しだ。

参考:https://www.gov.ca.gov/2025/11/11/governor-newsom-inks-new-global-partnerships-at-cop30-as-trump-administration-doesnt-even-show-up/