カリフォルニア州、「CO2パイプライン法」を可決 CO2除去産業の育成を加速

村山 大翔

村山 大翔

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カリフォルニア州が、炭素回収(CCS)、炭素除去(CDR)インフラ整備に本格的に踏み出した。ギャビン・ニューサム州知事は10月上旬、炭素を安全に輸送・貯留するための新法「上院法案614号(SB 614)」に署名し、州内でのCO2パイプライン建設を正式に認可した。法案はロサンゼルス選出の民主党上院議員ヘンリー・スターン氏が提出したもので、2022年に制定された炭素回収・貯留(CCS)の包括的枠組み法「SB 905号(キャバレロ法)」を補完する位置づけだ。

ニューサム知事は署名時に「カーボンマネジメントは、気候汚染削減に向けたカリフォルニア州の中心的柱だ。本法によって、気候危機の克服と同時に高技能で安定した雇用を創出できる」と述べた。

SB 614は、リモン議員による「SB 840号」とも連動している。同法は2026〜27年度予算で、州の温室効果ガス削減基金(Greenhouse Gas Reduction Fund)から8,500万ドル(約130億円)を拠出し、炭素除去・貯留関連の技術開発を支援する。
この基金は、カリフォルニア州排出権取引制度「キャップ・アンド・インベスト(Cap-and-Invest)」から得られる収入を原資とし、2045年まで延長された。同制度の下で、同州は炭素除去・貯留関連のスタートアップや実証プロジェクト群を急速に拡大させている。

スターン議員は「この法案は、公共参加を重視しつつ、CO2輸送パイプラインの安全基準を“世界最高水準”で確立するものだ。化石燃料依存度の高い産業の脱炭素化を進めるための大規模投資を促す」と述べた。
下院議員のコッティ・ペトリ・ノリス氏も「CCUS技術は気候目標を達成するための重要なピースであり、クリーンエネルギー未来の構築に不可欠だ」と指摘した。

今回の動きは、連邦環境保護庁(EPA)の温室効果ガス報告プログラム(Greenhouse Gas Reporting Program)見直しによる業界混乱が懸念される中で発表された。報告制度が後退すれば、CO2貯留を検証する仕組みが弱体化し、炭素回収事業の主要インセンティブである「45Q税額控除」資格を企業が失う可能性がある。

それでもカリフォルニア州は9月、炭素除去(CDR)推進を支える3本の新法案を通過させ、脱炭素インフラの基盤を固めた。

2022年に成立した「SB 905号(キャバレロ法)」は、炭素回収・除去・利用・貯留(CCUS/CDR)技術を総合的に評価・監視する「カーボンキャプチャー・リムーバル・ユーティライゼーション・アンド・ストレージ・プログラム」を設立。州大気資源局(CARB)を中心に、2030年以降のCO2除去目標を定め、統一的な許認可制度や公的データベース整備を義務づけた。

特に、

  • 地震活動や漏洩リスクの長期モニタリング(最長100年間)
  • 貯留層の所有権と責任範囲の明確化
  • 増進回収(EOR)目的でのCO2注入禁止
  • 地域住民への影響低減・補償義務
    などが厳格に規定されている。

これにより、炭素貯留プロジェクトの環境安全性と社会的受容性が制度的に担保されることになる。

カリフォルニア州は、2045年までに実質ゼロ排出を達成するという法的目標を掲げており、今回のSB 614はその実行段階を象徴するものだ。CO2パイプラインの整備は、直接空気回収(DAC)やバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)などのCDR技術を商業化する上での鍵となる。

同州の政策は、カーボンクレジット市場の信頼性向上と、州内雇用・技術革新の両立を狙う「炭素経済モデル」として、他州や諸外国にも波及する可能性が高い。

参考:https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=202120220SB905