BYDが豪州で620万トンのカーボンクレジット獲得 EV普及で320億円超の価値に

村山 大翔

村山 大翔

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中国の電気自動車(EV)大手、BYD(比亜迪汽車)が、オーストラリアの「新車効率基準(NVES)」制度下で約620万単位のカーボンクレジットを蓄積したことが明らかになった。低排出ガス車の販売実績に応じたもので、その潜在的価値は最大で2億1,700万ドル(約325億5,000万円)に達すると試算されている。排出規制が強化される中、カーボンクレジットは単なる規制遵守の手段から、企業の収益性を左右する「戦略的資産」へと変貌を遂げている。

排出枠の売却で巨額利益 豪NVES制度の仕組み

オーストラリア政府が導入したNVES(New Vehicle Efficiency Standard:新車効率基準)は、新車フリートの平均二酸化炭素(CO2)排出量に上限を設ける制度である。基準値を下回る低排出ガス車を販売したメーカーにはクレジットが付与され、逆に基準を超過したメーカーは罰金を支払うか、他社からクレジットを購入して不足分を補填しなければならない。

BYDが獲得した6.2ミリオン(620万単位)という数字は、同社が豪州市場で圧倒的なシェアを持つEV供給能力を反映している。現時点で公的な取引価格は確定していないが、2024年NVES法に基づく罰則金(1g/kmあたり100豪ドル)を背景に、市場では1単位あたり50〜60豪ドルでの取引が予想されている。米ドル換算で35ドル前後と仮定した場合、BYDが保有するクレジットの総額は2億1,700万ドル(約325億5,000万円)規模にのぼる。

テスラを追随する「環境価値」の収益化

自動車メーカーがカーボンクレジットで巨額の利益を上げるモデルは、先行するテスラ(Tesla)が証明済みだ。テスラは2025年、他社へのクレジット売却により約20億ドル(約3,000億円)の収入を得ている。

2025年に世界最大のEVメーカーとなったBYDは、この「炭素収益モデル」をグローバルに展開しようとしている。現在、同社は欧州市場においても、2025年から強化されるEU排出規制の罰金を回避したい既存のレガシーメーカーに対し、余剰クレジットを供給する「クレジット・プール」の形成に向けた協議を進めている。欧州での規制違反に伴う罰金総額は、業界全体で最大156億ドル(約2兆3,400億円)に達するとの予測もあり、BYDの持つクレジットは極めて高い交渉力を持つ。

レガシーメーカーに迫る「コンプライアンス・スクイーズ」

一方で、内燃機関(ICE)車の販売を主力とする伝統的な自動車メーカーは、厳しい「コンプライアンス・スクイーズ(規制による締め付け)」に直面している。

  • 規制コストの増大
    自社での技術革新が追いつかない場合、競合他社であるBYD等からクレジットを購入し続けなければならず、実質的にライバル企業の資金源を支える構図となる。
  • 市場の二極化
    2035年までの新車ゼロエミッション化を掲げるEUや、規制を強化するアジア諸国において、カーボンクレジットの創出能力が企業の時価総額や競争力を左右する時代に突入した。

2045年のカーボンニュートラルへ

BYDは単なるクレジットの獲得に留まらず、2045年までにバリューチェーン全体でのカーボンニュートラル達成を掲げている。独自開発の「ブレードバッテリー」技術を核とした循環型エネルギーシステムの構築や、2030年までに自社運営の炭素集約度を2023年比で50%削減する目標を推進中だ。

今回の豪州における大規模なクレジット獲得は、脱炭素政策が強力なインセンティブとして機能し、EVシフトを加速させている実態を象徴している。炭素価格が自動車産業の勢力図を塗り替える中、BYDの「炭素資産」は今後も拡大の一途を辿るとみられる。

参考:https://www.nvesregulator.gov.au/reporting-and-data/2025-nves-performance-period-results

参考:https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2025/0324/2025032401244.pdf

参考:https://www.bydglobal.com/cn/news/2025-04-27/1617162640737