ブラジル政府は9月23日、2025年11月に同国ベレンで開催される国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)に合わせて、熱帯林を保全する国々に対して資金を提供する新たな基金「トロピカル・フォレスト・フォーエバー・ファシリティ(TFFF)」を創設すると発表した。対象は70超の開発途上国で、世界最大級の多国間環境基金に成長する可能性がある。拠出資金の20%は先住民や地域住民に配分することを義務付け、森林保全と気候変動対策の両立を狙う。
マリナ・シルバ環境・気候変動相は「自然を搾取して富を得る時代は終わった。これからは市場原理を活かし、持続的に自然を守る時代だ」と強調した。
TFFFは各国政府の拠出を呼び水に民間資金を引き込み、最大で初期250億ドル(約3兆9,000億円)を原資に1,000億ドル(約15兆7,000億円)の追加投資を見込む。年間40億ドル(約6,300億円)規模の資金フローを創出し、従来の熱帯林保全資金の約3倍に相当する規模となる。
基金の仕組みは「1ヘクタールあたり4ドル(約630円)」の保存森林に応じて国に支払う形で、衛星観測によるモニタリングを前提とする。森林破壊が確認された場合は減額措置がとられる。
森林の「気候サービス」を世界が評価
アンドレ・アキノ経済・環境特別顧問は「熱帯林はCO2の吸収や水循環の維持といった地球規模の気候安定に不可欠だ。TFFFはそのサービスに対して世界が報酬を与える仕組みだ」と述べた。
ラファエル・ドゥブー副財務次官も「森林の価値は潜在的に見えにくい。TFFFは『立ち木の価値は伐採より高い』という理念を実際の資金フローに変える」と指摘した。
先住民への直接配分を義務化
TFFFの特徴は、拠出資金の20%を必ず先住民や地域コミュニティに割り当てる点だ。ソニア・グアジャジャラ先住民担当相は「先住民は森の最大の守り手だが、これまで資金を持たずに保護してきた。TFFFは自律的な取り組みを支える基盤になる」と述べた。国連食糧農業機関(FAO)の調査でも、先住民が管理する土地はその他地域に比べ森林破壊率が2.5倍低いことが示されている。
国際連携とカーボン市場との補完
ブラジルは2023年のCOP28でルラ大統領が構想を初披露して以降、コロンビア、ガーナ、コンゴ民主共和国、インドネシア、マレーシアと連携。出資候補として独、UAE、仏、ノルウェー、英も名乗りを上げている。中国やBRICS各国も支持を表明し、多国間主義の新たな象徴とされる。
また、TFFFはカーボンクレジット市場とも補完的に機能する。市場が植林やCO2除去といった活動に対価を与えるのに対し、TFFFは「森林を伐らずに残すこと」自体を国家単位で評価する。ブラジルは国内でのカーボンクレジット市場制度をすでに法制化しており、両制度を組み合わせて国際的な排出削減に貢献する考えだ。
展望
TFFFは国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の正式な仕組みではないが、各国の資金動員目標に算入される可能性がある。COP29(バクー)で合意された1.3兆ドル(約204兆円)の気候資金目標との連動も検討課題となる。
COP30での正式発足に向け、今週ニューヨークで開かれる国連総会でもルラ大統領が各国首脳に支持を呼びかける予定だ。