世界自然保護基金シンガポール(WWFシンガポール)とハッチ・ブルー(Hatch Blue)は、シンガポール経済開発庁(EDB)の支援を受け、ブルーカーボン生態系を拡大するための国際的なオープン・イノベーション挑戦「Blue Catalyst(ブルー・カタリスト)」を開始すると発表した。発表はニューヨークで開催中の「気候週間2025」に合わせて行われた。
ブルーカーボンとは、マングローブや海草藻場、湿地などの沿岸生態系に蓄積される炭素を指す。これらは陸上森林の最大4倍の効率でCO2を吸収・固定し、さらに海岸防護や生物多様性の保全、食料安全保障(年間約8000億ドル=約122兆円の価値)にも寄与する。しかし、世界のマングローブ依存種の40%が絶滅危機にある。カーボンクレジット市場は2024年に14億ドル(約2,100億円)規模に達し、2030年には350億ドル(約5兆3,000億円)まで拡大する見通しであり、ブルーカーボン再生の資金源として注目されている。
「Blue Catalyst」は12か月間のプログラムで、参加するスタートアップや技術提供者が沿岸保全現場で実証実験を行い、炭素測定・検証(MRV)、生態系マッピング、バイオ多様性モニタリング、苗木育成技術などの課題解決に取り組む。最終的には高品質で信頼性の高いブルーカーボンクレジットの創出につなげる狙いだ。
EDBのリム・ウェイレン副総裁は「シンガポールは東南アジアの中心に位置し、世界で最も豊かなブルーカーボン生態系を持つ地域の取り組みを支える立場にある。『Blue Catalyst』を通じ、技術革新と協力によって持続可能な拡大を実現したい」と述べた。
また、WWFシンガポールのヴィヴェック・クマールCEOは「ブルーカーボンは大きな可能性を秘めているが、測定や実装に多くの課題が残されている。『Blue Catalyst』はそれらの上流課題に正面から取り組み、信頼できるクレジットを生み出すための技術基盤を築く」と強調した。
さらに、ハッチ・ブルーの共同創業者ウェイン・マーフィー氏は「科学的知見、政策支援、投資準備のノウハウを組み合わせることで、商業的に持続可能なブルーカーボン技術の拡大を後押しする」と述べ、起業家や投資家への参加を呼びかけた。
シンガポールは2050年までのネットゼロ目標に向けて、高品質カーボンクレジットを年間約251万トン分活用する計画を示しており、「Blue Catalyst」は同国のカーボンサービス拠点戦略の中核を担う取り組みと位置づけられる。2025年12月に応募受付が開始され、2026年5月にはシンガポールで成果発表のデモデイが予定されている。