森林管理および炭素除去(CDR)プロジェクトの開発を手掛けるスイスのFLSグループAG(FLS Group AG)と、CDRソフトウェアおよびMRV(計測・報告・検証)プロバイダーのクラ(Cula)は2026年2月20日、バイオ炭プロジェクトにおけるサンプリング工程の利益相反を解消するための業務提携を発表した。
本提携により、事業者が自ら測定試料を選ぶ従来の慣習を打破し、デジタルMRV(dMRV)を活用した独立第三者による抜き打ち検査体制を構築する。
バイオ炭MRVの「弱点」を克服
現在、バイオ炭によるCDRクレジットの信頼性を支えるMRVプロセスにおいて、最大の弱点とされているのがラボに提出される「アンカーサンプル(代表試料)」の採取工程である。現行の認証基準では、サンプリング計画の策定や代表性の確保は求められているものの、独立した第三者による物理的な試料採取までは義務付けられていない。
このため、プロジェクト開発者が自らラボに送る試料を選択できる「チェリー・ピッキング(都合の良いデータの抽出)」が可能な構造となっており、カーボンクレジットの正確性や耐久性、環境コンプライアンスに対する疑念を招くリスクがあった。FLSグループとクラはこの「利益相反」がバイオ炭セクター全体のレピュテーションリスクに直結すると判断し、今回のプロトコル開発に至った。
抜き打ち検査とデジタル追跡の融合
新たに導入されるプロトコルでは、定義された間隔で独立した第三者が試料採取を行う。これには最短3時間前という極めて短期間の通知による「抜き打ちオンサイト・サンプリング」が含まれる。
採取された試料は、クラのデジタルインフラによって「誰が、いつ、どこで採取したか」というデータが記録される。このdMRV記録はラボの分析結果と紐付けられ、現場から最終的なカーボンクレジット発行に至るまで、改ざん不能な監査証跡として保存される仕組みだ。
パラグアイの「プロジェクト・アルフレイム」で初稼働
この新プロトコルは、パラグアイで展開されるFLSグループのプロジェクト「プロジェクト・アルフレイム(Project Alfheim)」で初めて実装される。同プロジェクトは、中国の海輝環境エネルギーグループ(Haiqi Environmental Energy Group)の熱分解技術やデカルボエンジニアリング(DecarboEngineering)の技術協力を得て運営されている。
年間約30,000トンの廃棄物系バイオマスを処理し、約13,000トンの高品質なバイオ炭を製造する計画だ。これにより、年間で約25,000トンの除去が見込まれている。FLSグループは今後、自社が手掛けるすべてのバイオ炭プロジェクトにおいて、この第三者サンプリングを標準仕様として義務付ける方針である。
今後の展望と市場への影響
FLSグループのアナリティクス責任者であるジョバンニ・マラストーニ氏は、「炭素除去が資産クラスとして成立するためには、現実世界での耐久性と、精査に耐えうる透明性の両立が不可欠だ」と述べている。
バイオ炭カーボンクレジット市場は、他のCDR手法と比較して低コストかつスケーラブルであることから注目を集めているが、品質のバラつきが課題となっていた。今回のデジタル技術と物理的な第三者監視を組み合わせた取り組みは、機関投資家や大手企業が安心して資金を投じられる「投資適格」なカーボンクレジット創出の新たな業界標準となる可能性がある。
日本国内でもJ-クレジット制度においてバイオ炭手法が普及しているが、サンプリングの厳格化は避けて通れない議論である。
今後、日本企業が海外から高単価なバイオ炭クレジットを調達する際、こうした「デジタル証跡を伴う第三者サンプリング」の有無も評価における選別基準の一つになるだろう。
