米アリゾナ技術評議会が新枠組み 会員750社へ高品質なカーボンクレジットを提供

村山 大翔

村山 大翔

「米アリゾナ技術評議会が新枠組み 会員750社へ高品質なカーボンクレジットを提供」のアイキャッチ画像

米アリゾナ州の技術業界団体であるアリゾナ技術評議会(AZTC)と、同州を拠点とする環境スタートアップのバイタルエコ(VitalEco)は12月3日、AZTCに加盟する約750社に対し、信頼性の高いカーボンクレジットへのアクセスを提供する「バイタルエコ・ポートフォリオ」の立ち上げを発表した。この枠組みは、メタン排出削減や炭素除去(CDR)を含む厳選されたプロジェクト群で構成され、会員企業の脱炭素化支援と地域のエコシステム強化を同時に目指すものである。

新たに提供されるポートフォリオは、短・中期の気候変動対策として極めて重要な3つの領域に焦点を当てている。第一に、米国内の所有者不明の廃油ガス井(オーファン・ウェル)の閉鎖による「メタン排出削減」である。IPCCによれば、メタンは20年間の期間で見た場合、二酸化炭素(CO2)の80倍以上の温室効果を持つため、発生源での対策は即効性が高い。  第二に、米国、カナダ、欧州におけるバイオ炭および生物由来製品の活用である。これは廃棄物管理や土壌修復に加え、炭素を長期的に固定する技術として注目されている。  第三に、米中西部におけるリジェネラティブ農業である。不耕起栽培などの手法を通じて大気中のCO2を土壌に貯留(隔離)し、農地の回復と炭素除去を同時に実現する。

特筆すべきは、これらのカーボンクレジット管理に金融大手ノーザン・トラスト(Northern Trust)が開発したデジタルプラットフォーム「ノーザン・トラスト・カーボン・エコシステム(The Northern Trust Carbon Ecosystem™)」を採用している点だ。これにより、カーボンクレジットの生成から償却までのライフサイクル全体がデジタル管理され、透明性の高い決済と追跡が可能となる。市場で課題となっているカーボンクレジットの品質とダブルカウントのリスクに対し、金融機関グレードの基盤を用いることで信頼性を担保する狙いがある。

また、本提携には資金還流の仕組みも組み込まれている。バイタルエコは、カーボンクレジット販売収益の一部をAZTCに寄付すると表明しており、AZTCはこの資金を科学技術振興プログラムやイノベーション支援に充当する方針だ。  AZTCのスティーブン・G・ジルストラ(Steven G. Zylstra)社長兼CEOは、「アリゾナの技術コミュニティは未来を形作ることで知られている。この提携は、会員企業に測定可能な炭素対策を行うための実用的なツールを提供するものだ」と述べ、持続可能性へのコミットメントを強調した。

一方、バイタルエコのジャン・ベルト(Jan Belt)CEOは、「我々の使命は今日の排出を防ぎ、明日のための解決策を拡大することにある」と指摘し、地域経済への貢献と気候変動対策の両立を訴えた。  AZTCは加盟企業に対し、2025年12月まで本ポートフォリオの「創設サポーター(Founding Supporters)」としての参加を呼びかけており、地域のイノベーション・エコシステム全体での脱炭素化を加速させる構えだ。

参考:https://www.aztechcouncil.org/news/arizona-technology-council-and-vitalceo-announce-selective-carbon-portfolio-partnership/