11月3日、オーストラリアのクリーンエネルギー規制庁(CER)は、南オーストラリア州で稼働中の炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトに対し、初めてオーストラリアカーボンクレジット単位(ACCU)を発行したと発表した。発行量は制度開始以来最大規模であり、同国のカーボンクレジット市場におけるCCS手法の実用化を示す重要な節目となる。
CERによると、ACCU発行の対象は、石油・ガス企業サントス(Santos Ltd.)が主導するムーンバCCS施設で、年間最大170万トンのCO2-eを25年間にわたり回収・貯留する計画である。これは2012年に制度が開始されて以来、単一プロジェクトとしては最大のカーボンクレジット発行となる。
CCSは、排出源からCO2を分離・圧縮し、地中深くに封じ込める技術である。世界的に有効な排出削減手段として注目される一方、過去には想定した貯留量を達成できない事例もあり、信頼性を巡る議論が続いてきた。ムーンバ施設では、試運転段階から想定通りの貯留量を達成しており、同庁は「技術的・環境的要件を満たした」と評価している。
クリーンエネルギー規制庁のデービッド・パーカー議長は、「今回のACCU発行は、排出されるはずだった温室効果ガスを恒久的に地中に封じ込めたことを意味する」と述べた上で、「CCSは産業界の大規模脱炭素化を実現し、オーストラリアを気候対策の先導国として位置づける」と強調した。
ムーンバ施設は、オーストラリアの産業排出を管理する「セーフガード・メカニズム」の対象でもある。同制度では、CCSプロジェクトに発行されたACCUが二重計上されないよう「アドバック」条項が設けられており、発行年度には同施設の排出枠に加算される仕組みとなっている。これにより、排出量の整合性と会計上の透明性が確保される。
CERはまた、ACCU発行申請は法的要件に基づき厳格に審査され、独立監査人による合理的保証監査を経る必要があると説明している。CCSの場合は、実際に地下へ圧入されたCO2量を直接測定する義務がある。
今回の発行詳細は、CERの次回更新予定である「ACCUプロジェクト登録簿」に反映される見通しだ。ムーンバ案件は、今後のCCSクレジット認証モデルとして国際的な注目を集める可能性がある。
参考:https://cer.gov.au/news-and-media/media/2025/november/first-accu-issuance-carbon-capture-and-storage-project