国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下に設置された方法論専門家パネル(MEP)は、2025年12月1日から5日にかけてドイツ・ボンで開催した第10回会合において、パリ協定6.4条メカニズムにおける炭素除去(CDR)活動の核心となる「逆転(reversal)リスク評価」に関する技術的定義で合意に至った。
同パネルはまた、電力消費に伴う排出量算定や機器の技術的寿命決定に関するツールについてパブリックコメント(公募)の開始を決定するなど、旧来のクリーン開発メカニズム(CDM)からの移行と新制度の運用開始に向けた技術的枠組みの構築を加速させている。
除去クレジットの品質を左右する「永続性」担保へ
今回の会合で最大の焦点となったのは、大気中のCO2を除去・貯留する活動(リムーバル)における「非永続性」への対処である。MEPは、「基準:メカニズム方法論における非永続性と逆転への対処」に含まれる計算式(方程式8)を運用するために必要な、逆転リスクの定量化や救済措置(remediation measures)に関する専門用語の作業定義について合意した。
具体的には、ドラフト段階にある「方法論ツール:逆転リスク評価」の検討において、全体的なリスク格付けの上限設定の必要性や、「無視できるリスク(negligible risk)」の定義、さらには救済措置をリスク評価にどう反映させるかといった論点が整理された。これは、自然由来や工学的除去を含むCDRプロジェクトが発行するクレジットに対し、どれだけの期間、炭素が固定され続けるかという「永続性」を科学的に保証するための重要な一歩となる。
電力排出係数など2つの重要ツールで意見公募
MEPは、CDMからの移行を見据えた既存方法論の改定作業も進めている。特に、プロジェクトのベースライン排出量やリーケージ排出量を算定する上で不可欠な「発電および/または電力消費による排出」に関する方法論ツール案について、ステークホルダーからの意見公募(パブリックインプット)を行うことで合意した。
これに加え、「機器の技術的寿命の決定」に関するツール案についても同様に意見公募が行われる。これらのツールは、再生可能エネルギーや省エネプロジェクトにおいて、削減効果を過大評価することなく正確に算定するための基礎となるものであり、次回の会合で寄せられた意見を分析し、監督委員会(Supervisory Body)への提案に向けた最終化を目指す。
グリーンアンモニアなど新規方法論も審査継続
新たなクレジット創出機会として提案されている新規方法論(PMM)についても議論が進展した。再生可能エネルギー由来の電力を用いた水素・窒素合成によるアンモニア生産(PMM001)や、硝酸生産における亜酸化窒素(N2O)削減(PMM002)、さらには調理用エネルギー転換(クリーンクッキング)のための包括的な排出削減評価(PMM004)について検討が行われた。
特にアンモニア生産の方法論は、ハーバー・ボッシュ法を用いるプロセスにおいて、再エネ電力による水電解水素を活用することで炭素集約度を低減するものであり、脱炭素燃料としての水素・アンモニア市場との連携も期待される。MEPはこれらの提案について、次回の会合でも継続して作業を行うとしている。
MEPは2026年のスケジュールも確定させており、第11回会合は1月26日から30日にボンで開催される予定である。6.4条市場の本格稼働に向け、技術的詳細の詰めが急ピッチで進められている。
参考:https://unfccc.int/sites/default/files/resource/A6.4-MEP010.pdf

