国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下でパリ協定第6.4条メカニズム(A6.4M)の運用を担う監督委員会は2026年2月3日、クリーン調理器具の普及プロジェクトなどにおける排出削減量の算定に不可欠な「非再生可能バイオマス比率(fNRB)」のデフォルト値を規定する新しい方法論ツール(草案)を公開した。
本ツールは、アジア、ラテンアメリカ、サハラ以南のアフリカにおける国別のデフォルト値を提示しており、これまで算定が複雑だった森林減少抑制によるクレジット創出プロセスの透明性と効率性を高める狙いがある。
第6.4条メカニズム方法論専門家パネル(MEP)が作成したこの草案は、薪や木炭などのバイオマス利用を削減するプロジェクトにおいて、燃料消費の減少分がどれだけの温室効果ガス排出削減に寄与するかを決定する重要な指針となる。
fNRBは、消費される木質バイオマスのうち、再生可能ではない(=森林減少につながる)割合を示す係数であり、この数値が高いほど、プロジェクトによって回避された燃料消費が大きな排出削減効果として認められる仕組みだ。
今回のツール開発にあたり、MEPはクリーン開発メカニズム(CDM)時代の既存ツール(TOOL33)をベースにしつつ、最新の科学的シミュレーションモデルである「燃料採取シナリオ・モデリング(MoFuSS)」を採用した。MEPはMoFuSSの開発チームと協議を重ね、現時点ではCDMで承認されたデフォルト値を採用することが最適であると結論付けた。地域別のfNRBデフォルト値は、アジアが18%、ラテンアメリカが32%、サハラ以南のアフリカが40%と設定されている。
国別の詳細な数値も提示されており、例えばハイチでは59%、セネガルでは61%、モーリタニアでは65%と非常に高い比率が設定された一方で、ガイアナやトルクメニスタンは0%、ジョージアやアルメニアは1%と極めて低い数値となっている。これらの数値は、当該国における森林資源の持続可能性を反映しており、プロジェクト開発者は自国の数値を用いることで、より精緻なクレジット発行量の予測が可能になる。
本ツールは現在、ステークホルダーからのパブリックコメントを受け付けており、寄せられた意見を集約した上で、監督委員会の今後の会合で正式承認される予定である。承認後、本ツールは3年以内に最新の研究成果やモデルの改良に基づいて見直されることが決まっており、データの正確性と保守性を継続的に担保する体制が整えられている。
今後は、指定国家機関(DNA)が独自の「標準化されたベースライン」としてfNRB値を提案することも認められており、各国の実情に即したより詳細なデータ整備が進むことが期待される。本ツールの正式な発効日および有効期限は、最終承認の段階で決定される見通しだ。
今回のfNRB(非再生可能バイオマス比率)ツールの公開は、クリーン調理器具(クリーンストーブ)分野のカーボンクレジットにとって極めて大きな転換点となる。
これまで、クリーン調理プロジェクトは「排出削減量の過大評価(オーバークレジッティング)」がたびたび批判の対象となってきた。
その最大の論点が、このfNRBの値だった。
従来の算出方法では数値が画一的、あるいは過度に高く設定されているとの指摘があったが、今回「MoFuSS」という科学的モデルを背景にしたデフォルト値を国連公式ツールとして提示したことで、クレジットの「質の担保」が一段進んだと言える。
事業者にとっては、CDMから第6.4条メカニズムへの移行期間において、どの数値を使えばよいかという不確実性が解消されるメリットがある。一方で、アジア地域のように18%という比較的低いデフォルト値が設定された地域では、創出できるクレジット量が従来より抑えられる可能性もあり、プロジェクトの経済性(収益シミュレーション)を再精査する必要が出てくるだろう。
今後は、2026年中に寄せられるパブリックコメントの内容と、それを受けた最終版での数値修正があるかどうかが、クリーン調理分野の投資判断を左右する重要なウォッチポイントとなります。


