英アクアテラ・エナジー(Aquaterra Energy)は5月20日、独自開発した回収可能型廃坑フレーム「RAF(Recoverable Abandonment Frame)」の初号機について製造段階に移行したと発表した。納入先は英国最大級のCCSプロジェクト「ノーザン・エンデュランス・パートナーシップ(Northern Endurance Partnership、NEP)」であり、2025年に獲得した複数契約に基づく初の実機案件となる。
RAFは、海底に残置された旧油ガス田の廃坑を再進入・改修・恒久閉鎖する一連の作業を、フレーム自体を回収・再利用しながら実施できる設計を採用している。アクアテラの試算では、坑井1本あたり最大2,000万ポンド(約38億円)の閉鎖コスト削減と、改修工期の最大50%短縮が見込まれる。フレームの回収・再利用が可能であることが、コスト構造を従来型の廃坑作業から大きく引き下げる要因となる。
成熟した北海のような海域でCO2地中貯留を本格展開する場合、過去数十年にわたって掘削された旧油ガス田の坑井群が貯留サイトに介在することが避けられない。これらのレガシー坑井は、長期的なCO2の漏出経路となるリスクを抱えており、貯留サイトの完全性(インテグリティ)を担保するうえでの最大級の技術的ボトルネックとされてきた。
CCS事業者はこれまで、案件ごとに高コストの坑井閉鎖オペレーションを実施するか、レガシー坑井を回避してサイト設計を制約するかの選択を迫られてきた。RAFは坑井に対して垂直再進入を可能にする機構を備え、改修後も回収・再利用できる設計とすることで、サイト単位ではなく事業ポートフォリオ単位での廃坑コスト最適化を実現する設計思想を採る。
製造はイングランド東部グレート・ヤーマスのデリック・サービシズ社(Derrick Services Ltd)が担い、追加部品も英国内サプライチェーンから調達される。本件はCCSインフラ整備における英国製造業の関与拡大を示す案件としても位置づけられる。
NEPは英国の産業脱炭素化構想「イーストコースト・クラスター」の中核となるCO2輸送・貯留インフラを担うプロジェクトであり、2028年から年間最大400万トンのCO2注入が認可されている。世界的に見ても先行するCCS案件の一つであり、RAFは同プロジェクトの拡張貯留サイトへの展開が計画されている。
アクアテラのジョージ・モリソン最高経営責任者(CEO、George Morrison)は、英国で製造段階に入ったこと自体が、世界のCCSセクターへの英国オフショア・エンジニアリングの貢献を示す重要なマイルストーンであり、レガシー坑井の安全な管理が確立されない限りCCSはスケールしない、との認識を示した。NEPのリッチ・デニー(Rich Denny)マネージング・ディレクターも、RAFを将来のCO2貯留サイトの長期インテグリティを支える革新的アプローチと位置づけた。
CCSのスケール化を巡る議論は、貯留容量や政策的インセンティブの議論に偏重しがちだが、実装段階での真のボトルネックは成熟海域に残存するレガシー坑井の管理にある。北海のような掘削履歴の長い海域でCCSを商業規模に乗せるには、案件単位の積算ではなく、フレーム再利用を前提とした坑井閉鎖の工業化が不可欠となる。RAFはこの構造的課題に対し、ハードウェアの汎用化と再利用設計で応える解を提示している点で、CCSのコスト曲線を下方シフトさせる潜在力を持つ。