アマゾンの森林保護に新試算 「先住民保有地と保護区が森林減少抑制の鍵」 放置なら森林損失35%増・炭素排出45%増

村山 大翔

村山 大翔

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米国の環境団体エンバイロメンタル・ディフェンス・ファンド(Environmental Defense Fund、EDF)は28日、ブラジル・アマゾンにおける森林保全の新たな分析結果を公表した。報告書によると、現在保護指定のない6,340万ヘクタールの森林を先住民保有地または保護区に指定すれば、2030年までにアマゾン全体の森林減少を最大20%(約250万ヘクタール)抑制し、森林減少由来の炭素排出を最大26%(12億トンCO2相当)削減できるという。これは日本の年間排出量に匹敵する規模である。

EDFの報告書「ブラジル法的アマゾンにおける管轄単位別森林減少抑制における保護区の重要性」は、2022〜2030年の間に既存の先住民保有地および保護区が計430万ヘクタールの森林減少を防ぎ、21億トンCO2相当の排出を回避すると推計。これはロシアの年間排出量を上回り、世界全体の約5.6%に相当する。

EDFの熱帯林担当副会長スティーブ・シュワルツマン氏は「熱帯林の消失を止めることは気候安定化に不可欠であり、解決策は明快だ。脆弱な森林を先住民や政府の保護下に置くことが、最も効果的な手段である」と述べ、「COP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)に集う各国代表は、このエビデンスに基づいて行動すべきだ」と強調した。

研究チームは、土地利用価格や地理的条件、森林伐採の傾向など9種類のデータセットを用いて、未指定森林が伐採される確率とそれに伴う炭素排出量を算出した。先住民関連のデータはブラジル政府の先住民国家基金(FUNAI)から取得した。

ブラジルの法的アマゾン9州(アクレ、アマパー、アマゾナス、マットグロッソ、マラニョン、パラー、ホンドニア、ロライマ、トカンチンス)はアマゾン全域の約6割を占める。EDFによると、これらの州で先住民保有地や保護区が存在しない場合、森林減少は平均35%増加し、炭素排出は45%増えると推定された。特にロライマ州では71%、アマゾナス州では59%の増加が見込まれる。

環境経済学者で報告書の主任研究者ブレノ・ピエトラッチ氏は「保護区は生物多様性や炭素貯蔵、地域社会の生計維持に不可欠であり、その効果は区域内にとどまらず周辺地域にも波及する」と指摘した。

アマゾンでは1985〜2020年の間に森林減少の9割が先住民保有地の外で発生した一方、先住民保有地では原生植生の損失はわずか1.2%にとどまった。2001〜2021年の間に、先住民管理地は年間約1億2,000万トンのCO2を排出する一方で、年間4億6,000万トンを吸収しており、累計で3億4,000万トンの吸収超過となった。これは英国の年間化石燃料排出量に相当する。

EDFは声明で「熱帯林の保全なしに気候変動の解決はあり得ない。アマゾンは地球最大の炭素貯蔵庫として、短期的な経済利益に優先して守られるべきだ」と訴えた。

今回の報告書は、2025年にブラジル・ベレンで開かれるCOP30を前に、各国が改訂する国家削減目標(NDC)への政策的示唆として注目を集めている。ブラジル先住民代表団は、土地権の法的承認や先住民主導の気候対策支援をNDCに組み込むよう政府に求めている。

参考:https://www.edf.org/media/new-analysis-finds-indigenous-lands-and-protected-areas-are-key-slowing-deforestation-without