インド農業由来のCDRを大規模化 15拠点・100万トン規模のバイオ炭プロジェクト始動

村山 大翔

村山 大翔

「インド農業由来のCDRを大規模化 15拠点・100万トン規模のバイオ炭プロジェクト始動」のアイキャッチ画像

シンガポールのカーボンプロジェクト開発企業アルコム(Alcom Carbon Markets)は2026年2月16日、インド最大級のアグリテック・プラットフォームを展開するデハート(DeHaat)と戦略的提携を締結したと発表した。

両社はインド国内に15カ所以上の産業用バイオ炭製造プラントを建設し、今後数年間で累計100万tCO2に及ぶ長期的なCDRクレジットの創出を目指す。本提携により、断片化されていたインドのバイオ炭事業を、機関投資家レベルの「バンカブル(銀行融資可能な)」な資産クラスへと押し上げる狙いだ。

400万人の農家網を活用した「プラグ・アンド・プレイ」モデル

今回のプロジェクトは、インドのグジャラート州、マハーラーシュトラ州、ビハール州の3州から開始される。デハートが保有する400万人以上の農家ネットワークと、1万4,000拠点を超える「デハート・センター」を通じて未利用の農業残渣(バイオマス)を回収。これをタピ・ヘルスケア・ライフスタイル(Tapi Healthcare Lifestyle:THL)が提供する高度な熱分解技術を用いて加工する。

このモデルの特徴は、既存のサプライチェーンに組み込む「ブラウンフィールド型」かつ「プラグ・アンド・プレイ」方式を採用している点にある。バイオマス供給から、生成されたバイオ炭の農地還元、バイオオイルの流通までを一気通貫で管理することで、オペレーションの効率化と炭素除去の完全なトレーサビリティを確保する。

「サーキュラリティ」による収益の多角化

アルコムは、単なるカーボンクレジット創出に留まらない収益構造を構築している。生成されるバイオ炭は土壌改良剤(バイオ肥料)として農地に還元され、収穫量向上と化学肥料削減に寄与する。また、副産物のバイオオイルはバイオ燃料として販売される。

アルコムの創設者兼CEOであるプラティーク・ティワリ(Prateek Tiwari)氏は、「本提携は、バイオ炭プロジェクトがいかにして断片的な導入から、制度化されたCDR資産へと進化できるかを示すものだ。15のプラントへの拡大により、長期的なオフテイク契約(引取契約)に裏打ちされた、リスクを抑えた投資モデルを構築する」と強調した。

バイオ炭CDRの市場背景と経済的価値

バイオ炭によるCDRは、炭素を数百年にわたり固定化できる「高耐久性CDR」として、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)で高い評価を得ている。現在、高品質なバイオ炭カーボンクレジットの取引価格は1トンあたり100ドル〜200ドル(約1.5万円〜3万円)程度で推移しており、本プロジェクトが目標とする100万トンのカーボンクレジット創出が実現すれば、累計で1億ドル〜2億ドル(約150億円〜300億円)規模の市場価値を生み出す計算となる。

これまでインドのバイオ炭事業は小規模なものが中心であったが、デハートのシャシャンク・クマール(Shashank Kumar)CEOは「当社の広範なサプライチェーンと農家ネットワークにより、産業規模での高速な拡大が可能になる。これは持続可能な農業インフラを構築するという当社の長期ビジョンに合致するものだ」と、大規模化への自信をのぞかせた。

アジア全域への展開

アルコムはすでにインドだけでなくフィリピンでもプロジェクトを進行させており、今回のデハートとの提携をモデルケースとして、アジア全域でのバイオ炭インフラの構築を加速させる方針だ。農業残渣の焼却による大気汚染が深刻な課題となっているアジア諸国において、環境再生型農業と高付加価値なカーボンクレジットを両立させる本事業は、脱炭素化に向けた重要なソリューションとなる。

インドのアグリテック最大手とシンガポールの開発企業が組んだ本案件は、ボランタリー炭素市場における「供給の質と量」のフェーズが変わったことを象徴している。特に、既存の農家ネットワークをそのままCDRのインフラとして活用する戦略は、サプライチェーン排出量(Scope 3)の削減を模索する日本の商社や食品メーカーにとっても、質の高いカーボンクレジット確保や技術協力の観点で大きな投資機会となるだろう。

参考:https://www.linkedin.com/posts/alcom-carbon-markets_alcom-dehaatpress-release-india-scaleup-partnership-feb26-activity-7429187846982275072-3_D2