米イリノイ州ディケーター市は1月12日、大手アグリビジネス企業のアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)が展開する炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトを巡り、住民向けの公聴会を開催する。
2024年に発生した二酸化炭素(CO2)の漏出事案が、市との契約交渉中に開示されていなかった事実が判明し、プロジェクトの安全性と監視体制への懸念が急速に高まっている。
ADMは2021年、同市近郊のトウモロコシ加工工場から排出されるCO2を回収し、地下深くへ永久貯留する世界初の商用CCS施設を稼働させた。同事業は産業部門の排出削減と低炭素燃料生産を支える気候変動対策の要と位置付けられていたが、地域の飲用水源であるディケーター湖の下部への貯留拡大を巡り、住民との対立が激化している。
事態が表面化したのは2024年3月で、ADMは既存のCCS運用に関連する漏出を特定していた。
米国環境保護庁(EPA)は、この事案による飲用水への影響はないと判断したが、問題はその後のプロセスにある。漏出の調査が進む一方で、ADMは市当局とディケーター湖の下部に炭素を封じ込めるための99年間にわたる地役権設定の交渉を継続し、同年7月に合意に至っていた。
批判の矢面に立っているのは、交渉期間中に漏出の事実が市議会や住民に共有されなかった点だ。地元住民のバーリン・ローゼンバーガー氏は、「99年の契約を求める前に問題を報告しなかったのは明らかに意図的だ」と指摘し、一度汚染された水源は元に戻らないと危機感を募らせている。ディケーター市議会(Decatur City Council)のデイブ・ホーン議員も、安全性やインフラ整備費用の負担の所在を含め、詳細な説明が必要であるとの認識を示した。

これに対し、ADMの広報担当であるデーン・リッサー氏は、CCS技術の安全性と有効性に自信を持っており、プロジェクトは地域に新たな産業と経済的機会をもたらすと主張している。同社は1月12日に開催される公聴会を通じて、住民の懸念に対処し、理解を求める方針だ。
今回の公聴会での議論は、今後の全米におけるCCSプロジェクトの透明性確保や、地域社会との合意形成のあり方を占う試金石となる。
今回の米ADMの事例は、カーボンクレジットや炭素除去(CDR)事業の信頼性が、単なる技術的精度だけでなく「情報の透明性」に依存していることを浮き彫りにした。特にCCSのような地下貯留事業は、地域のインフラや資源に長期間影響を及ぼすため、ステークホルダーとの対話が不可欠である。
日本国内でもCCSの実証試験が進む中、予期せぬトラブルの適時開示とコミュニティとの信頼構築が、事業継続の最大のリスク管理となるだろう。12日の公聴会での市の判断に注目が集まる。


