オーストラリア炭素市場の監督強化 「ACI行動規範」年次報告で独立性と準拠水準を引き上げ

村山 大翔

村山 大翔

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オーストラリアの業界自主規範であるオーストラリア炭素産業行動規範(Australian Carbon Industry Code of Conduct、ACI)は、10月27日に2024〜2025年度の年次コンプライアンス報告書を公表した。報告書は、規範の独立性強化に向けた組織再編と、準拠・監督の実効性向上を柱とする。署名企業は2018年以降に登録された土地起点型のオーストラリアン・カーボン・クレジット・ユニット(Australian Carbon Credit Unit、ACCU)新規プロジェクトの多数を占め、透明性とベストプラクティスの拡大を示した。

報告書は、独立レビューの勧告に基づき、規範の運営を担う新たな独立法人を設立する方針を明記した。カーボン・マーケット・インスティテュート(Carbon Market Institute、CMI)は全額出資の子会社を設立し、2025〜2026年度に取締役会と再構成したレビュー・パネルの下で運営を開始する計画である。

コンプライアンス面では、署名企業の88%が要件を完全充足した。苦情件数は15件と過去最多となったが、規範の説明責任メカニズムの信頼性が高まり、利害関係者の利用が進んだことの表れと位置づけられている。署名企業は期末時点で46社、政府パートナーは3機関に拡大した。

CMIのインテグリティ・コンプライアンス担当ディレクターで規範管理者のサミュエル・ドーズ氏は「2024〜25年次報告は、成熟した規範が高い完全性を持つ炭素市場を支える役割を進化させていることを示す。改革は、参加者と利害関係者の信頼の枠組みを将来にわたり提供する」と述べた。また「署名企業、土地所有者、ファースト・ネーションズと連携し、環境・社会面での実質的成果を伴うプロジェクトを後押しする」と指摘した。さらに「透明性とガバナンスを基盤に、2025〜26年は準拠水準とベストプラクティスを一段と高める支援に注力する」と語った。

土地所有者向けには、クイーンズランド州政府の支援で作成した『カーボン農業の連携チェックリスト』を公開した。プロジェクト参画時の役割分担や契約留意点を整理し、情報の非対称性を縮小する狙いである。

ACIの重点課題は、独立レビュー勧告の実装と規範バージョン3の協議、政府・企業買い手・土地所有者・ファースト・ネーションズとの対話強化、実務ガイダンスと研修の拡充に置かれる。ACCUsの発行・取引は品質基準への信認に左右されるため、規範の独立運営と監督強化は、クレジットの買い手保護と市場価格の堅調化に資する。

背景として、ACIは2018年に創設された任意の業界規範であり、署名企業は年次の自己監査報告で遵守状況を示す。土地起点型のACCUは、吸収源の追加性や恒久性などの論点で継続的な検証が求められており、規範は情報開示、クライアント対応、紛争解決の最低基準を設定することで市場の完全性を補完する。今回の組織再編が予定どおり2025〜26年度に始動すれば、豪州クレジットの品質担保に関する国際的な説明力が増す見込みである。

今後は、独立法人への移行計画とコード改訂案の公表時期、ならびに署名企業の準拠状況推移が焦点となる。2025〜26年度の運用開始と並行し、利害関係者の意見募集と実装手順の具体化が迫られる。

参考:https://carbonmarketinstitute.org/2025/10/27/code-report-shows-stronger-standards-and-market-impact/