デンマークのセメント製造大手オールボー・ポートランド(Aalborg Portland)は2月3日、2030年までに年間140万トンの二酸化炭素(CO2)を回収・貯留する大規模プロジェクト「ACCSION」の実現に向け、政府の炭素回収・貯留(CCS)支援策に入札した。
同社は仏産業ガス大手エア・リキード(Air Liquide)と提携し、世界初となる「製造時の直接排出ゼロ」のセメント工場設立を目指す。採択されれば、デンマークの産業部門における2030年の排出削減目標の約半分を単独で担う計算となる。
今回の入札対象は、デンマーク政府が用意した総額287億クローネ(約7,100億円)規模のCCS支援基金である。
オールボー・ポートランドが主導するACCSIONプロジェクトは、ユトランド半島北部における陸上インフラを活用し、CO2の回収から輸送、地下貯留までを国内で完結させる「完全統合型オンショアCCSバリューチェーン」の構築を柱としている。同社は2030年代初頭の稼働開始を予定しており、規制当局による最終承認を待つ段階にある。
同プロジェクトの影響力は、単一工場の枠を大きく超える。
年間140万トンの直接回収に加え、回収過程で発生する余熱を地域暖房に再利用することで、さらに10万トンの排出削減に寄与する見通しだ。これはデンマーク国内の約19,100世帯分の暖房需要を賄う規模に相当する。オールボー・ポートランドのソーレン・ホルム・クリステンセン最高経営責任者(CEO)は「セメントはインフラや建設、グリーン転換に不可欠だが、排出の多くは原料の化学反応(ミネラルプロセス)に由来するため、CCSなしでは100パーセントの脱炭素化は不可能だ」と、同技術の必要性を強調した。
産業界では、CCSの導入が欧州の競争力維持と雇用の保護に直結するという認識が広がっている。クリステンセンCEOは「今回の入札は当社だけでなく、デンマークの気候戦略における重要な転換点だ。重工業の脱炭素化が可能であることを欧州全域に示すモデルケースにしたい」と述べた。ACCSIONが採択されれば、欧州連合(EU)圏内でも極めて稀な、セメント製造に特化した陸上完結型のCCSシステムが誕生することになる。
今後のスケジュールとして、審査を担うデンマーク・エネルギー庁(DEA:Danish Energy Agency)は2026年4月に補助金交付の最終決定を下す予定だ。
採択が決定すれば、プロジェクトは詳細設計(FEED)および建設フェーズへと移行し、欧州重工業の脱炭素化を加速させる強力なフックとなることが期待されている。
今回のオールボー・ポートランドによる入札は、単なる一企業の脱炭素化を超えた「産業クラスター戦略」の試金石といえる。特に注目すべきは、デンマーク国内で完結する「オンショア(陸上)」のバリューチェーン構築だ。
これまで欧州のCCSは北海などでのオフショア貯留が主流だったが、陸上での輸送・貯留インフラを整備することで、コスト低減と地域産業へのエネルギー還流(余熱利用)を同時に実現しようとしている。
日本においても、セメントや鉄鋼などのハード・トゥ・アベイト(削減困難)分野の脱炭素化は喫緊の課題だ。苫小牧などでの実証実験が進む中、デンマークのように「政府による巨額の資金支援」と「地域暖房などの既存インフラとの統合」をパッケージ化する手法は、日本の工業地帯におけるCCS実装のモデルとして大いに参考になるだろう。
参考:https://www.aalborgportland.dk/aalborg-portland-indgiver-bud-paa-dansk-ccs-pulje/


