米クライメートテックのカーボンリッジ(Carbon Ridge)が、世界で初めて「遠心分離式」のCO2回収装置を商業用タンカーに搭載し、実際の海上運航での試験を開始した。パートナー企業は海運大手スコルピオタンカーズ(Scorpio Tankers)で、装置は製品タンカー「STI SPIGA」号に取り付けられた。設置はトルコ・ベシクタシュ造船所で行われ、7月から本格運用に入っている。
この新技術は、従来の大型・複雑なCO2回収装置とは異なり、船舶専用にゼロから設計された点が特徴。エンジンの排ガスからCO2を取り出し、圧縮・液化して船内に保管する仕組みで、航海中に排出される温室効果ガス(GHG)を抑える役割を担う。
装置のサイズは従来比で最大75%小型化されており、既存の船にも後から取り付けやすい。さらに燃料の種類を問わず動作するため、将来の環境規制にも対応しやすいという。
カーボンリッジの創業者でCEOのチェイス・ドワイヤー氏は、「私たちの装置は最初から船のために開発されました。コストも抑えやすく、柔軟性と拡張性を備えたソリューションです」と語っている。
開発資金には、ノルウェーの投資ファンド、カタパルト・オーシャン(Katapult Ocean)やシンガポールの海運会社ベルゲ・バルク(Berge Bulk)が出資。今回の資金調達により、カーボンリッジの累計調達額は2,000万ドル(約31億円)を超えた。
このプロジェクトには、造船・装置製造・計測機器の各分野からDNV(船級協会)、スピッツァー・インダストリーズ(Spitzer Industries)、エンドレスハウザー(Endress+Hauser)、ベシクタシュ造船所(Besiktas Shipyard)なども協力している。
海運業界では、従来の重油を使いながらも排出を抑える手段として「船上でのCO2回収(オンボードCCS)」が注目されている。今回の遠心式装置の実用化は、脱炭素に向けた現実的な選択肢として注目を集めそうだ。
今後は、年内にも航行データの公表や、港でのCO2荷下ろし試験が予定されている。