ロシア政府は5月19日、EU(欧州連合)のCBAM(炭素国境調整メカニズム)に関し、WTO(世界貿易機関)に正式な協議要請を提出した。環境政策を名目にした貿易保護主義を制限する目的で、今後他国による類似措置の拡大を防ぐ狙いがある。ロシア経済発展省は、「CBAMはシステム的な問題であり、EUは環境政策の名を借りて保護主義を正当化しようとしている」と主張している。対象となる輸入品には鉄鋼、アルミニウム、肥料、セメントなどが含まれ、ロシア産業界に大きな影響を及ぼす可能性がある。ロシアの提訴は、EU規則「Regulation (EU) 2023/956」に基づくCBAMや、EU ETS(排出権取引制度)に関する関連法規を対象としている。ロシアは、これらの措置がGATT1994、輸入手続協定、補助金・相殺措置協定、およびブルガリア、クロアチア、バルト三国のWTO加盟議定書に違反していると主張する。WTOの協議要請は紛争解決手続きの初期段階であり、60日以内に解決されない場合、ロシアはWTOパネルによる裁定を求めることができる。EUのCBAMは2026年から段階的に導入予定で、EU域内と域外の製品の炭素コストを均等にすることを目的としている。ロシアは、多くのWTO加盟国がCBAMに対して懸念を表明しており、自国の立場には一定の国際的支持があると指摘する。特に、EU以外の国々がCBAMによる貿易歪曲や途上国産業への悪影響を懸念しているとされる。今回の提訴は、環境と貿易の調和をめぐる国際的議論をさらに深める契機となる見通しだ。CBAMをめぐる国際的合意形成が今後の焦点となる。参考:https://www.wto.org/english/news_e/news25_e/ds639rfc_19may25_e.htm