常温環境下で実現する、高効率・低コストなカーボンリサイクル技術2025年5月、研究者チームが大気から回収したCO2をエネルギー効率良く一酸化炭素へ変換する新技術を発表した。電気化学プロセスの改良により、従来より約40%も少ないエネルギーでの変換を実現し、常温条件でのカーボンリサイクルが現実的な選択肢として浮上してきた。DAC × 電気化学変換の課題と可能性CO2を直接空気から回収するDAC(Direct Air Capture)は、注目される脱炭素技術だが、回収後の処理に膨大なエネルギーが必要という課題を抱えている。これまでの研究では、CO2を炭酸塩溶液に吸収し、電気化学的にCOへと変換する「electrified reactive capture(電化反応吸収)」が提案されてきたが、そのプロセスは全体として59 GJ/トンCO以上のエネルギーを必要とし、実用性に限界があった。コバルト触媒とナノチューブ、pH制御の融合研究チームは、CO生成反応の活性を高めるために、電子不足状態のコバルトベース触媒(CoPc)を選定。さらに、この触媒を導電性のカーボンナノチューブにアミド結合で固定化することで、電子移動と反応速度の最適化を実現した。これに加え、反応系にpHダウンシフター(電気化学的pH調整システム)を導入。これにより、CO2の供給効率を向上させ、より高い反応選択性と変換効率が得られるようになった。エネルギー効率と選択性の大幅向上このシステムは、全セル電圧2.7V(100 mA/cm²)という低電圧で70%のファラデー効率を達成。これにより、CO製造に要するエネルギーは35 GJ/トンCOに抑えられ、従来比で約41%の省エネを実現した。これは、DACでCO2を回収し、800℃の高温で逆水性ガスシフト反応(RWGS)を行うプロセスと同等のエネルギーコストでありながら、常温環境で動作可能という点で極めて実用的だ。モジュール化と分散型炭素変換技術へこの研究は、簡素で分散可能なCO2-to-COシステムの実現可能性を示しており、再生可能エネルギー由来の電力と組み合わせることで、脱炭素型製造プロセスや燃料合成(Power-to-X)の中核技術となる可能性を秘めている。今後の課題は、触媒耐久性、スケールアップ、ならびに産業適用での経済性評価だが、大気中CO2の資源化という観点からも、カーボンリサイクル社会への大きな一歩といえる。参照:https://www.cell.com/joule/abstract/S2542-4351(25)00064-9