欧州委員会は7月7日、生物多様性の保全や自然環境の回復に向けて、民間投資を呼び込む「ネイチャークレジット(自然クレジット)ロードマップ」を発表した。この制度は、森林の拡大や湿地の回復などの取り組みを認証し、企業や農家、土地所有者が投資家からの資金を得られる仕組みをつくるものだ。ネイチャークレジットを活用すれば、環境保全を進めながら、新たな収益源を確保できるようになる。欧州では企業の約75%が自然の恩恵を受けて事業を営んでおり、気候変動による自然環境の悪化は保険料の上昇やサプライチェーンの混乱を引き起こしている。こうしたリスクを防ぐためにも、自然への投資が急務となっている。ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長は「自然をバランスシートに載せる必要がある。ネイチャークレジットは民間の投資とイノベーションを促し、自然を守る農家や林業者に収益をもたらす制度になる」と述べ、制度の意義を強調した。欧州委は、年間650億ユーロ(約11兆3,000億円)不足している生物多様性投資を補うため、ネイチャークレジット市場の創設を進める。2026〜2027年にはEU予算の10%を生物多様性保全に充て、対外支出も70億ユーロ(約1兆2,200億円)に増やす計画だ。今回のロードマップでは、透明性の高い認証制度を設け、グリーンウォッシュを防ぐとともに、企業や市民が参加しやすい制度設計を目指す。関心のある企業や研究者、市民団体などからの意見募集を9月30日まで実施し、制度づくりに反映させる方針だ。また、運営体制づくりのため、専門家グループへの参加者募集も始めており、最初の締め切りは9月10日となっている。現在、フランス、エストニア、ペルーでパイロットプロジェクトを進めており、生物多様性クレジットアライアンス(BCA)、世界経済フォーラム(WEF)とも連携を深めている。この取り組みは、2022年に採択された「クンミン・モントリオール生物多様性枠組」に基づく世界目標の達成にも貢献するものだ。「このロードマップで、私たちは自然を欧州の未来の資産として位置づける重要な一歩を踏み出す」ジェシカ・ロスウォール欧州委員はこう話している。EUは今後、ネイチャークレジット市場の本格運用に向けて準備を進め、9月の意見募集締切後に次の具体的な動きを発表する予定だ。参考:https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_1679