カーボンクレジット市場の中核課題の一つである「永続性(Permanence)」に焦点を当て、ICVCMが2025年5月に公表した「継続的改善作業プログラム(CIWP:Continuous Improvement Work Programs)」の第一弾報告書の要点と、その意義を解説します。なぜ「永続性」が問われるのか永続性は、1トンのCO2削減・除去を証明するカーボンクレジットが、どれだけ確実に長期間その効果を保持できるかに関わる概念です。プロジェクトによっては、森林火災や人為的な干渉などにより、削減されたCO2が再び大気中に戻るリスク、リバーサルリスク(Reversal risks)がつきまといます。永続性をどう担保するかは、市場の信頼性を左右する重大な論点です。永続性に関するICVCMの課題整理ICVCMが主張した主要課題は以下のとおりです。市場内で手法が統一されていない既存のカーボンクレジット発行制度では、永続性を扱う基準や手法が多様であり、統一されたルールが存在しない。モニタリング期間と補償制度の曖昧さ例えば「モニタリングが停止された場合にどの程度の責任を負うべきか」という点で、市場内に統一見解がない。バッファリザーブの管理手法市場の一部では、リバーサルリスクに備えるための「共通バッファプール」を導入しているが、その十全性や運用方法には改善余地がある。ICVCMの6つの具体的な提言ICVCMは、永続性を担保するための以下の6つの提案を行いました。リバーサルの定義を明確化「回避可能なリバーサル」と「不可避なリバーサル」の標準定義を設定する。モニタリング停止時の責任明示モニタリング中止は回避可能なリバーサルと見なし、過去のバッファ拠出分と同等の補償義務を課す。バッファリザーブのストレステストの導入第三者による5年ごとのストレステストの実施を推奨。リスク評価の標準化プロジェクト毎のリスク評価に使うリスク区分とデータソースについて、共通ガイドラインを設ける。100年単位の補償期間導入の検討モニタリングを「発行時点」基準に見直すとともに、保険制度や基金など新たな補償モデルの検討を提案。イノベーション・サンドボックスの創設現行基準の一部免除を条件に、新技術・手法を実験的に試す制度の創設を検討。2025年には、この分野に特化したCIWPの第2フェーズが開始予定であり、より詳細な議論と実証が期待されています。本コラムは、ICVCMによる「永続性」のCIWP報告書の要点を整理し、今後の市場改革に向けた方向性を提示しました。永続性は、カーボンクレジットの信頼性を根幹から支えるテーマであり、制度整備や技術革新、ルール標準化の継続的な取り組みが求められています。参考:https://icvcm.org/continuous-improvement-work-programs/standardised-approaches/#permanencereport