海運脱炭素化を目指すGCMD(Global Centre for Maritime Decarbonisation)は、船上炭素回収・貯留(OCCS: Onboard Carbon Capture and Storage)に関する初の包括的な技術・経済評価を発表した。「COLOSSUS(Comprehensive Onboard Lifecycle and Operational Study of Shipboard Carbon Capture)」と題された本研究は、5つのOCCS技術と6種類の海上燃料、3通りのCO2処理手法を組み合わせて評価。船上でのCO2回収から貯留または再利用に至るまでのライフサイクル全体を網羅する世界初の分析である。MEAベースの回収で最大29%、バイオ燃料併用で121%の削減効果も調査では、最も成熟しているMEA(モノエタノールアミン)方式のOCCS技術が、重油(HFO)を使用する場合で航行から燃料製造まで含めた全体排出(well-to-wake)を29%削減できると評価された。さらにバイオLNGやバイオディーゼルと組み合わせた場合、その削減効果は69〜121%にまで上昇。これは、「ネガティブエミッション」化も視野に入る結果だ。CO2の用途別効果比較:コンクリート vs eメタノールコンクリート製造への転用では、セメント使用量の削減により最大60%の追加削減効果を得られる可能性がある。一方、再生可能エネルギーを活用してeメタノールに変換し再利用する方式では、削減効果は17%に留まる。この結果は、CO2再利用の用途によって気候効果が大きく異なることを示唆している。経済性と規制適合性への含意本研究は、CO2輸送・貯留を含めても、輸送1,000kmあたりの追加排出は全体のわずか1%未満に収まると指摘。一方で、40%の回収率での回避コストは1トンあたり269〜405ドルと高めで、技術面よりも経済性の課題が浮き彫りになっている。しかしながら、OCCSの導入により、HFOを使う船舶でも2032年まで現行規制を満たし続けられるとし、LNG船であれば2035年までの適合が可能。さらに、バイオ燃料と併用すれば2040年以降も規制クリアが見込める。GCMD「包括的視点での評価が重要」意思決定の基盤にGCMDのCEOリン・ルー教授は「今や業界をまたぐ脱炭素ソリューションが多様化し、各技術の効果を共通の基準で評価する手法が必要です。本研究はOCCSの全体的影響を可視化することで、政策立案者や投資家の意思決定を支える礎となるでしょう」とコメントしている。OCCSは「つなぎ技術」か、それとも主流へ?現在の海運脱炭素の主流はゼロ炭素燃料(eアンモニア、eメタノールなど)だが、それらの供給網構築に苦戦する中、OCCSは既存インフラを活かした現実的選択肢として再評価されつつある。規制上の明確な位置付けはまだ無いものの、本研究が今後の制度設計やプロジェクトファイナンスの根拠資料となる可能性は大きい。また、CCUSを含むクレジット創出への布石としても注目される。参照:https://www.gcformd.org/gcmds-life-cycle-study-quantifies-net-ghg-emissions-savings-for-pathways-with-onboard-carbon-capture-and-storage-occs/