金融庁カーボンクレジット取引インフラ検討会解説シリーズ第4回パート22025年1月28日に開催された金融庁「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会(第4回)」では、流通インフラの担い手として、東京証券取引所(JPX)、Carbon EX、そして enechain の3事業者が登壇した。それぞれが示した市場設計、実績、課題認識を総覧すると、日本のカーボンクレジット市場は「標準化と信頼性の確立」を軸に、GX-ETS本格稼働を見据えた次の成長曲線に差しかかっていることが鮮明となった。JPX「取引所モデルで価格発信と決済リスク排除を同時実装」JPXは、GX基本構想を受けた実証事業を経て、2023年10月11日にカーボン・クレジット市場を正式開設した。市場はインターネットベースのシステム上で、東証が売買当事者の間にエスクローとして入り、カーボンクレジット→代金の順に決済することで元本リスクを排除している。プロジェクト単位ではなく9カテゴリーに標準化した売買区分を採用することで流動性を底上げし、結果として開設から2025年1月22日までの累計取引量は722,545t-CO2に達した。その内約7割を再エネ電力由来が占めている。今後はマーケットメイカー制度やGX-ETS排出枠、JCMクレジット、先物取引の取り扱い拡充を検討しており、市場機能の高度化が不可欠だと説明した。Carbon EX「環境と金融の融合」Carbon EXはSBIホールディングスとアスエネの合弁により2023年6月設立。 「環境と金融を融合させた新産業を創る」を掲げ、国内外のクレジットや証書の幅広い商品を取扱い、創出支援やAPI連携も提供。登録企業は1,500社超、在庫は500万t-CO2規模と公表され、国内最大級のオンライン取引プラットフォームとなっていると説明した。売買はCarbon EXがカーボンクレジットと資金を仲介するエスクロー方式で、UI上では発行年・地域・由来別に検索しワンクリックで約定できる設計となっている。enechain「JCEX」エネルギー取引で培った流動性を環境価値へ横展開enechainは電力・燃料をリアルタイムで売買する「eSquare Live」を基盤に、日本最大級のエネルギーマーケットプレイスを運営するスタートアップであり、環境価値取引所「JCEX」を2023年4月に開始した。JCEXはザラ場方式で累計約100万t-CO2を取引。常時ライブの注文板と、認証情報と連動した高い品質担保が強みとしている。さらに世界最大級の環境価値プラットフォーマー XpansivとのAPI連携により、海外の高品質ボランタリーカーボンクレジットを国内企業が直接売買できる仕組みを構築した。市場監視面では、売買データのAI分析や信託銀行を組み合わせた決済保護スキームを準備しており、リスク管理指針も詳細に整備している。横断的論点「標準化・データ接続・デリバティブ」3者のプレゼンのキーワードは「標準化」と「システム接続」。JPXのカテゴリー取引、Carbon EXの多基準一括評価、JCEXの認証連携はいずれも相対取引では得難い価格シグナルを生み、信用力を高める狙いがある。一方、登録簿APIの未公開や決済連携のマニュアル運用は依然ボトルネックと指摘され、各社とも登録簿・銀行口座をリアルタイムで結び付ける次世代インフラの整備を急ぐ。将来的なGX-ETSフェーズ2では排出枠やデリバティブ需要が急増する見通しで、価格変動リスクをヘッジする先物取引の導入が共通課題となっている。まとめ国内クレジット流通の黎明期は「実証・相対」が中心だったが、2023年10月のJPX市場開設を境に「取引所・プラットフォーム」フェーズへ移行しました。発行量拡大、価格透明性、先物対応という三重課題に対し、JPXは公共インフラとしての信頼性、Carbon EXは金融×ESGの総合力、JCEXは迅速なテクノロジー実装というそれぞれの強みを提示しました。次の記事:カーボンクレジット取引活性化に向けた発行量と価格指標の整備、利用者保護・ガバナンスの実効性の二本柱の論点整理参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第4回)議事録.令和7年1月28日参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第4回)議事次第.令和7年1月28日