気候変動対策として注目される技術のひとつに岩石風化促進(Enhanced Rock Weathering:ERW)があります。この技術は、岩石の自然な風化を人為的に促進させ、大気中の二酸化炭素(CO2)を長期間にわたり地球に固定するものです。最近、ERWの科学的理解と商業的普及を後押しする新たな取り組みが始まりました。本コラムでは、Cascade Climateが立ち上げたERW向けデータ共有プラットフォーム「Data Quarry」の意義とその将来性について解説します。岩石風化促進(Enhanced Rock Weathering:ERW)とは岩石風化促進(Enhanced Rock Weathering:ERW)とは、玄武岩や橄欖岩などの細かく砕いた岩石を農地などに散布し、CO2を吸収・固定するプロセスです。化学反応によりCO2が炭酸水素イオンとなり、最終的に海洋に長期間保存されます。この過程では、土壌のpH改善や養分供給といった農業的メリットも見込まれています。データ基盤の意義とData Quarryの登場ERWの普及には、技術の効果検証や安全性評価を可能にする「信頼性の高いデータ」の蓄積が不可欠です。そのため、Cascade Climateは2025年6月にData Quarryを正式公開しました。このプラットフォームは、ERWプロジェクトの実施者が自らの現場データを匿名化した上で共有する仕組みを提供します。特に健康と安全に関するデータは完全公開され、研究者や政策立案者が利用可能です。Foundational知見との連携、EU規制に向けてData Quarryは、同社が推進する「Foundations for Carbon Dioxide Removal Quantification」プロジェクトの成果と連動しています。これは、約50人の学術研究者と20の事業者が関与した、ERWの正味の炭素除去量を評価する国際的な枠組みです。この成果は、EUが検討を進めるCRCF規則のERW認証方法の基盤として注目されています。CO2の削減量を、土壌中の測定値からライフサイクル排出やカチオン損失といった控除項目を引く形で算定する点が特徴です。今後の展望、市場と科学の接点に向けてData Quarryは、商業的なERW展開に対して、データ共有を条件とするカーボン購入者の参入も背景に、より多くの現場データを集積する見込みです。今後は、重金属の蓄積管理やSOC(土壌有機炭素)動態の解明など、より精緻な知見が求められます。また、測定手法の柔軟性と進化に対応することも重要です。将来的には、新技術の導入や異なる地理条件への適用など、多様な展開が期待されます。参考:https://data.cascadeclimate.org/