気候変動対策に不可欠な資金確保の手段として、カーボンプライシングが注目を集めています。本コラムでは、I4CEが2025年6月に発表した「Global carbon accounts 2025」の主要ポイントを紹介しながら、各国におけるカーボンプライシングの現状と今後の展望、そしてその財源としての潜在力について考察します。サマリー世界では78のカーボンプライシング制度が稼働中2024年の炭素収入は1,030億ドルにのぼるも、依然として化石燃料補助金に劣る有効価格で課金されている排出量は全体のわずか6%ETSにおける無償配分を見直せば750億ドルの追加財源創出が可能新興国での制度拡大が将来的な収入増の鍵カーボンプライシングの基礎と拡大状況2025年5月時点で、世界の43の炭素税制度と35の排出量取引制度(ETS)が炭素に価格を付けており、これらは世界GDPの65%を占める国・地域で導入されています。中国では2025年3月に全国ETSを鉄鋼・セメント・アルミ部門へと拡大し、これにより世界排出量の28%がカーボンプライシングの対象となりました。一方で、有効価格(減免措置や無償配分を除いた実質課税)で課金されている排出量はわずか6%。多くの制度で低水準の価格設定や特例措置が存在しており、本来のインセンティブ効果が発揮されていないことが課題です。カーボン収入の現状とギャップ2024年に各国が得たカーボン収入は1,030億ドルで、うち67%がETS、33%が炭素税によるものでした。収入は前年(1,060億ドル)から若干減少しましたが、主因はEU ETSでの排出枠価格下落です。これらの収入は、主に以下の目的で活用されています。56%:気候変動対策・環境・開発支援25%:企業や家庭への直接支援または税控除19%:特定用途を定めず一般財源に計上ただし、2023年に化石燃料補助金として支出された公的資金は5,720億ドルに達しており、カーボン収入との規模差は依然として大きいです。ETSの無償配分と失われた収入EU ETSなど多くの排出量取引制度では、排出枠の一部または全部が無償で配分されています。この「無償配分」により2024年に失われた財源は、少なくとも750億ドルと推計されています。中国の全国ETSは、現在15%の世界排出量をカバーしながらも100%が無償配分であるため、収入はゼロ。政策のあり方次第で大きな「未回収の財源」が存在しているのです。今後の展望とグローバルな論点今後数年間で、新たに14の制度が導入予定とされ、特にインド、ベトナム、トルコ、マレーシアなど新興国での動きが活発化しています。また、EU ETS2の2027年開始や国際海運業への課税制度(IMO)が予定されており、グローバルな広がりが進む一方で、「炭素国境調整措置(CBAM)」のような制度が開発途上国に与える影響と公正な資金配分の議論が新たな焦点となっています。まとめ本コラムは、2025年のグローバル・カーボンアカウントに基づき、カーボンプライシング制度が気候変動対策の財源として持つ可能性と限界を紹介しました。政策の設計次第で、より多くの収入を創出し、それを社会的に受け入れられる形で配分することが可能です。特に、無償配分の縮小や新興国での制度拡大は、今後の重要な焦点となるでしょう。参考:https://www.i4ce.org/en/publication/global-carbon-accounts-2025-climate/