2025年4月に正式リリースされたVCMI Scope 3 Action Code of Practice(以下、Scope 3 Action CoP)は、Scope3削減目標と実際の排出量ギャップを、高品質カーボンクレジットで「橋渡し」するガイドラインで、対象として想定されている企業は、科学的削減目標(SBT)を掲げているものの、削減が追いつかない企業とされています。
- そもそもVCMIって?
- なぜ「ギャップ充当」が必要?
- 4ステップで見るAction CoP
- ガードレール
- Claims CodeやSBTiとの関係を整理
- 実践する際の4つのポイント
- Action CoPは「仮払→完済」のルールブック
そもそもVCMIって?
VCMI(Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative)は、企業や自治体が自発的にクレジットを使う際の信頼性フレームワークを策定する国際機関です。2023年にClaims Code of Practice(成果を主張する際の基準)を公表し、続く第2弾として2025年4月に本ガイド「Scope 3 Action Code of Practice(略称:Action CoP)」を発表しました。
用語 | 意味 | かんたんに言うと |
---|---|---|
Claims Code | カーボンクレジットを使って排出量を報告するときのルール | カーボオフセットを主張するためのチェックリスト |
Action CoP | Scope 3の排出実績と目標のギャップを一時的に補うときの行動指針 | 「まだ削減途中だけど、その間カーボンクレジットで埋めるね」というときのマナー |
なぜ「ギャップ充当」が必要?
企業排出の7〜8割はサプライチェーン由来とされます。しかし農業や製造の改革には数年〜十数年かかり、目標値に届かない期間が必ず生じます。
Action CoPは、このギャップを高品質なカーボンクレジットで埋めつつ、資金を気候対策現場に循環させる「時間差解決」の方法を提示します。
例:アパレル企業ABCは2030年にScope 3を50%削減する目標を宣言。しかしサプライヤーの再エネ導入が遅れ、2030年時点で30%削減しか見込めません。残り20%分(ギャップ)を高品質なカーボンクレジットでリタイア(オフセット)する。これにより、サプライヤー投資することに繋がり、将来のScope3排出量が削減される。
4ステップで見るAction CoP
[ステップ1] Foundational Criteriaを満たす
- 科学的目標(SBT)などの温室効果ガス(GHG)削減目標を設定・公開
- 年次の温室効果ガス(GHG)排出量を、第三者検証付きで開示
- クレジット利用における、社内のガバナンス体制を整備
[ステップ2] Scope 3の削減目標と現状の差分(ギャップ)を計算
- Year‑on‑Year方式:年間排出量の25%以内が上限
- Carbon Budget方式:目標期間全体の累計25%以内、かつ単年40%超を禁止
- 計算はt‑CO2eで行い、削減・除去どちらもギャップに含める
[ステップ3] 高品質クレジットをリタイア
- 使用を認めるカーボンクレジットは原則、ICVCM CCPラベル または Article 6.4 クレジット
- 2026年1月までは暫定的にCORSIA準拠や独自デューデリジェンスでもOK
- リタイア記録を公開し、二重計上を防止
[ステップ4] 透明性の高い開示
- ギャップ量、クレジット種別、調達先、価格レンジを公開
- 残るボトルネック(例:技術課題、資金不足)と対策ロードマップを説明
ガードレール
ルール | ポイント |
25%ルール | ギャップが排出量の1/4以下ならOK |
40%ルール | Carbon Budget方式で単年40%超え禁止 |
2040年期限 | 2040年以降はクレジットでの充当不可 |
Claims CodeやSBTiとの関係を整理
Claims Codeは成果を外部に主張するときの「出口ルール」なのに対して、Action CoPは「途中経過」でカーボンクレジットを使うための「入口〜途中ルール」という整理となる。
SBTiは削減目標そのものを設定する枠組み。Action CoPは目標を変えずにギャップを埋める補助輪。Action CoPはSBTiの目標レベルを下げることを許さず、むしろ「未達分をクレジットで仮払しつつ、後で実削減で帳尻を合わせる」ことを要求します。
実践する際の4つのポイント
- ギャップ上限を自動計算するシートを作成する。
- CCPラベル市場の早期参入し、森林保全、SAF、バイオ炭など需給ひっ迫が予想されるセクターからの先物購入などを実施する。
- 2040年の「クレジット卒業」ロードマップを策定し、2035年頃にクレジット依存ゼロを目安に、サプライヤー変革投資を前倒しする。
Action CoPは「仮払→完済」のルールブック
Action CoPは、目標達成が遅れても「削減をあきらめない」ための仮払い仕組みです。25%・40%・2040年という3つのガードレールでカーボンクレジット依存を制御しつつ、高品質プロジェクトに資金を流し、最終的にはサプライチェーン改革で完済する、これが設計思想です。
カーボンクレジット市場の信頼性を高める動きが進む今、Action CoPは企業にとって逃げではなく攻めのツールになり得ます。日本企業も単なる購入者にとどまらず、供給側への投資と併せた戦略を取ることで、2040年より早くカーボンクレジット卒業を目指す必要があるでしょう。